ケープタウンで迎えたW杯開幕=中田徹の「南アフリカ通信」
ケープタウンには好きに歩く自由がある
W杯開幕を迎えた南アフリカでは各地で盛り上がりを見せ、母国の代表チームの健闘に熱狂した 【Photo:ロイター/アフロ】
飛行場に着くと、今度はバスに乗って町へ向かう。時折タウンシップ(旧黒人居住区)が見えるものの、山がそびえ、川が流れて、河川敷には緑があふれ、海も近い風光明美な土地柄に思わず心ひかれてしまう。
約30分後、バスはシビックセンターに着き、人々はケープタウン駅に向かって歩き出す。そのわずか5分間ほどの道中は、あまりに安全で感動的ですらあった。そう、ここは悪名高きヨハネスブルクと違って、旅行者は好きに歩く自由があるのだ。
タクシーで宿へ向かおうとしたが、乗り場が見つからないまま、ミニバス乗り場へ来てしまった。ヨハネスブルクでは絶対に乗るなと言われるミニバスだが、僕の皮膚感覚は「ここは絶対に大丈夫」と訴えている。こうして僕は南アフリカのミニバスデビューを果たした。
宿はシーポイントと呼ばれる一帯にあった。メーン通りを挟んで、あちら側が海、こちら側が山といった恵まれた地形だ。
「この辺は夜一人で歩いてもまったく問題ない。明日のワールドカップ(W杯)は歩いて行け。だいたい30分の距離だ」
宿のおじさんのアドバイスに、思わずここは本当に治安の悪い南アフリカなのかと疑いたくなった。こうして僕はケープタウンで羽目を外して痛飲してしまったのである。千鳥足で宿へ戻るなんて、なかなかヨハネスブルク近郊でできることではない。
開幕戦の引き分けで気勢をそがれた
午後3時ごろからメーン通りが静かになり始め、4時を過ぎると人も車もいなくなってしまい、シーポイント地区は完全に静まり返った。聞こえてくるのはブブゼラと、南アフリカ対メキシコ戦を実況するアナウンサーの声だけだ。熱狂と言えば騒がしいものだが、ケープタウンで静かな熱狂があるのも実感した。
開幕戦の前半は自室に戻って1人でテレビを見る。しかし後半は町へ繰り出し、オープンカフェのビッグスクリーンで無銭観戦をする。ちょうどこのとき南アフリカが先制した。店は当然盛り上がり、メーン通りの店という店から「ウォー」という声と、「ブォー」という笛の音が響いた。70分、モディセがさらに絶好機をつかむと、誰もが「シュート、シュート、シュート!」と叫んでシュートを促し、これがメキシコのGKに防がれると「ギャー」という悲鳴に変わった。さらに終了目前に失点。1−1でタイムアップの笛が鳴ると、まばらに拍手がわいた。
母国が守り切りに失敗し、ケープタウンの少なくともシーポイント地区は気勢をそがれてしまった。これから2時間半後にはウルグアイ対フランスが行われるのだが、クラクションを鳴らして町を走る車もそれほど多くない。
ウルグアイ対フランスの一戦は0−0で引き分けた。両者が無得点前半を終えると、ハーフタイムにフランスの応援席からブーイングが起こったが、すぐにブブゼラでかき消された。しかし90分を終えてもなお0−0となると話は別で、今度はブーイングがブブゼラを圧倒した。
フランス代表のドメネク監督の会見を聞いてから、ウルグアイ代表のタバレス監督を待つものの、なかなか出てこないのにしびれを切らせて宿へ歩いて戻る。スタジアムからシーポイントの宿まで約30分弱。店はどこもいっぱいだが、中をのぞくと人々は黙々と夜食を食べるのに集中している。
メキシコ相手に引き分けたのは健闘だ。それでも南アフリカにはしっかり勝ってもらって、もっと開幕を盛り上げてほしかったなと思ったケープタウンでの2日間だった。
<了>
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