カカ、ブラジル国民の期待と批判を背負って=セレソンの命運握るナンバー10

ブラジル代表の中心選手はカカ。母国に6度目のW杯優勝をもたらすことができるか 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)史上最多5回の優勝を誇るセレソン(ブラジル代表)は、まるでお約束と言わんばかりに、常に優勝候補の一角に挙げられる。今大会も例外ではない。南米チャンピオンのブラジル、欧州チャンピオンのスペインが大本命とされている。ただし、いつもと違うのは、ドゥンガ監督率いるチームが守備的と批判されていることだ。ブラジルは強固な守備とカウンターを武器に、実に手堅いサッカーを展開する。それゆえ、「ブラジルらしくない」という熱狂的な国民からおしかりを受ける。
 そんな喧騒(けんそう)も王国のエースは意に介さない。2002年に横浜で世界一に輝いたチームの一員でもあったカカは、結果がすべての批判を吹き飛ばし、すぐさま称賛に変わることを知っているからだ。

 確かに、華やかさやスペクタクルという点では、スペインに軍配を譲ることになるだろう。だが、勝負はそれだけで決まるものではない。記者の際どい指摘に、温厚なカカは一瞬表情を変え、強烈なプライドをのぞかせた。ブラジルが攻守両面で高いレベルを発揮することを強調し、「進化」と表現した。ただでさえ個人技に優れた選手たちが、完成された組織を手にすれば、チームはどうなるか。想像に難くないはずだ。
 カカは今季、レアル・マドリーでは満足な働きができなかった。しかしドゥンガは、メッシの能力を引き出せないマラドーナ(アルゼンチン代表監督)と違って、「カカの生かし方」を知っている。セレソンの10番は母国のため、再び輝くため、頂点に向かって走り出す。

世間で言われているほど悪くない

――君たちはメディアと多くのファンに疑問の目を向けられながらブラジルを発ち、南アフリカに入ったよね

 それは分かっている。でもセレソンを取り巻く環境がどんなものなのかを知っている人なら、それがいつものことだってことも分かっているはずだ。ブラジルのファンはとても熱狂的で、セレソンはフットボールの頂点に立つ存在だ。だから誰もが自分の意見を主張し、決断する権利があると思っているんだ。1994年や2002年の大会前の状況を覚えているなら、それが今の状況と似ていたことを思い出すだろう。そして、そのように悲観するファンの予想通りになっていれば、チームはすぐにW杯から引き上げなければならなかったはずだ。でも僕らはタイトルを勝ち取ったからね。

――今、ブラジルは決して悪い状態にはない。にもかかわらず、批判が絶えないのは気になるところだけど、何が最も議論されているのだろう?

 多くのメディアは僕らのシステムが守備的だと指摘している。でも監督はそれぞれ独自のスタイルを持っており、ドゥンガも就任後に自身のそれを見つけ出した。僕らはそのおかげで、W杯南米予選、昨年のコンフェデレーションズカップ、そして07年のコパ・アメリカを戦い抜くことができたんだ。だから僕は世間で言われているほど悪いものだとは思っていないよ。

――ブラジルはここ数年、すべてを勝ち取ってきたけど、何よりもスペクタクルのために、もう少し大胆にプレーをした方がいいとは思わない?

 あなたにとって、もっと大胆なプレーとは何かな? 僕らには2人の強力なFWがいる。中盤には創造性があり、絶え間なく攻撃参加する両サイドバックがいる。セットプレーになればルシオも上がって空中戦に参加する。時に7人も攻撃にかかわることがあるけど、だからといって守備を捨てているわけでもない。だからセレソンのフットボールは大きく進化してきたんだ。

――ロナウジーニョ、ロナウド、アドリアーノといったビッグネームを南アフリカで見ることができず、多くの人々が驚いたよね。彼らにとっては大きすぎる罰なのでは?

 僕が監督の決断に意見するのは不可能だけど、いちファンとしては残念に思っている。3人とも素晴らしいクラッキ(名手)だからね。でも全員を招集するための枠はない。誰を呼び、誰を外すかを決めるにあたっては、常に厳格さと判断力を伴った検討が求められる。そしてそれは監督個人が行うものだ。

スペインと当たれば事実上の決勝戦

――君自身は、あまり出来が良くなかったシーズンの後にW杯を迎えることになるわけだけど

 その通り、僕にとっては良いシーズンではなかった。長きにわたってけがに苦しみ、さらにミランからレアル・マドリーへの移籍という変化もあった。それらがあまりにも短い期間に起こったんだ。来季に向けてしっかり回復したい。そのために必要なものとして、W杯よりいいものはない。それに、今季あまりプレーできなかったことで逆にフレッシュな状態でW杯に臨むことができる。消耗の激しいシーズンを終えたほかの選手たちと比べると、その点は僕にメリットがあるかもしれない。

――2トップと3ボランチの間に位置するのと、別の攻撃的MFと2人のボランチとともにプレーするのでは、どちらの方がやりやすい?

 僕はどちらのフォーメーションにも適応できる。どんな形でも難なくプレーできるよ。僕のプレーに必要なのは、動き回り、ハイスピードで相手ゴールに迫るためのスペースだ。それはどちらのフォーメーションでも確保できているから、僕にとっては同じなんだ。

――君はすでにW杯に2回出場しているけど、ブラジルがW杯で最多優勝を誇る要因は何なのだろう?

 ブラジルでフットボールについて語るのは、母国を語るのと同じことなんだ。フットボールほど多くの人々とつながり、また独自の世界を築いているものなど存在しない。今回の南アフリカのように遠い異国でW杯のピッチに立ち、国歌が流れ、スタンド中を黄色と緑色に染めた人々が歌い始める。そんなときには唯一無二の感覚を覚えるんだ。それに、僕らには常に質の高いフットボールがあった。

――しかし、今回はくじ運が良くなかったね

 そうだね。本命がもっと楽に決勝トーナメントに進出できそうなグループもあるわけだから。僕らのグループは最も競争が激しい。コートジボワールは高いレベルにあり、ポルトガルも危険だ。それでも僕らは準備を整えている。

――友人のクリスティアーノ・ロナウドと対戦しなければならないしね

 もう彼とはその話をしているよ。ピッチで相まみえ、あいさつを交わすことができたら素敵だね。彼とはレアル・マドリーでいい関係を築いているんだ。

――しかも、決勝トーナメント1回戦ではスペインが待っているかもしれない

 そうなれば恐らく非常に厳しいね。事実上の決勝戦となるかもしれない。昨年のコンフェデ杯でもスペインと決勝で当たるものと思っていたんだけど、実現しなかった。今こそその時が来るかもしれない。勝ちたいのであれば、どんな相手と対戦することになってもいいように、しっかり準備しておく必要がある。

<了>

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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