V5のナダル、その執念はすさまじかった=全仏テニス最終日

内田暁

ナダルが太陽を好む理由

ナダル(写真)はその集中力と執念で、2年ぶり5度目の全仏オープン優勝の栄冠を勝ち取った 【Getty Images】

「太陽だ! いつだって快晴が良い。なぜって? だって太陽はエネルギーだからさ」
 全仏オープンテニスの準決勝で快勝したラファエル・ナダル(スペイン)は、2日後に控えた決勝戦に向けて、太陽の参戦を希望した。
 
 そのナダルより一足先に決勝の席を確保していたのは、昨年の同大会4回戦にて、ナダルの“全仏無敗神話”を阻んだ男、ロビン・ソデルリング(スウェーデン)。今年は準々決勝で、小雨が降り足元がぬかるむ悪天候の中、ロジャー・フェデラー(スイス)の連覇の夢を剛腕で粉砕した男である。

 ナダルが、降り注ぐ陽光を決勝に求めるのには、理由がある。全仏が採用する土のサーフェス(コートの表面)では、しばしば「コートは生き物」と形容されるように、天候や気温などさまざまな外因がコートの状況を変え、テニスの質に多大な影響を及ぼすからだ。
 日光にさらされ乾いた土の上ではボールは良く跳ね、トップスピンの威力が生きる。逆に雨天や湿度が高い状況だと、水分を含んだ土がボールに付着し、ボールそのものが重くなる。スピンなどの回転も掛けづらくなるため、フラット系のショットで力強くボールを打ちぬく選手に有利だ。クレーのスペシャリストであるナダルは前者の状況を好み、対するソデルリングは、後者の状況で、文字通り水を得た魚となる。先述したとおり、ソデルリングがフェデラーを破ったのは霧雨が降りしきる中であり、試合後の会見では「スウェーデン人向きの天気だった」と笑顔を見せたものだ。
 “太陽の島”マヨルカ島生まれのナダルと、極夜(一日中、あるいは数時間しか太陽が昇らない現象)の国スウェーデン出身のソデルリング。互いの出身地を反映させたかのような好みに象徴されるように、決勝で対峙(たいじ)する両者は、多くの点で対照的だった。

二人の“確執”は3年前にさかのぼる

 プレースタイルや昨年の対戦以外にも、両者にはいくつかの相違点や、過去の歴史がある。
 “確執”とも呼べる関係の始まりは、3年前のウインブルドン。3回戦で対戦した際、ナダルが既にサーブ体勢に入っていた時に、ソデルリングがタイムを取る場面があった。思わぬ中断にナダルがいら立った態度を見せると、ソデルリングは、ナダルがサーブ前にショーツを引っ張る、その仕草をモノマネしたのだ。試合はナダルが勝ったものの、普段は他人を悪く言わない彼がこの時ばかりは、「あいつはひどいヤツだ」と語気を荒げた。
 
 今大会の決勝を控えた会見でのコメントも、対照的だ。
 この決勝の顔合わせを望んでいたかと聞かれ、ソデルリングが「もちろん、対戦を意識していた。コーチとも試合前になるといつも、この可能性を話していたんだ」と青い瞳に野心的な光をたたえるのに対し、ナダルは「いや、トマシュ(ベルディヒ 。準決勝のソデルリングの対戦者)の方が良かった。彼との方が相性が良いから」と、試合をリベンジと捕えることを強く否定する。

 そのナダルが、唯一ソデルングに対し対抗意識を示したのは、記者から「ソデルリングが、クレーで良い成績を残していることをどう思うか?」と水を向けられた時だ。
 「ノーノーノー。僕はそうは思わないよ。クレーシーズンと言った時には、全仏のことだけを差す訳じゃない。外にもいくつもの大会があり、それらを見れば、ソデルリングが良いクレーコート選手とは言えないと思う。クレーのスペシャリストにとって最も大切なのは、コート上での動きなんだ」。

 この大会だけを見て、クレーコートについて語って欲しくないと主張するような口調。そして自らを言い現わした“クレーのスペシャリスト”という言葉。スペイン語での会見では「全仏で勝つことは、自分の責任だと感じる」との台詞もあったという。これら一連の発言には、ヒリヒリするまでの“キング・オブ・クレー”の矜持(きょうじ)がにじんだ。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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