不祥事乗り越え勝負の舞台へ――佛教大エース・大野=全日本大学野球選手権

松倉雄太

関西ナンバーワン左腕にプロも熱い視線

佛教大のエース・大野。関西ナンバーワン左腕にプロも注目 【松倉雄太】

 8季連続の京滋大学リーグ優勝を果たした佛教大は、全日本大学野球選手権(6月8日開幕)への出場を決めた。今季、監督代行としてチームの指揮を執った菊野義朗コーチは、リーグ戦をこう振り返った。
「苦しかったです」
 昨秋、明治神宮大会ベスト4に導いたエース左腕・大野雄大(4年・京都外大西高)のピッチングにことしは注目が集まるはずだった。
 しかし2月、元部員の不祥事で佛教大は1カ月の活動自粛を余儀なくされた。開幕10日前まで全体練習ができず、オープン戦を1試合も経ないままシーズンに突入。宍戸光正前監督が職を辞し、26歳の若きコーチがさい配を振るうことになった。大野をはじめ主将の三島之紘(4年・智弁学園高)ら昨年から試合経験のある選手は多く残っており、リーグ戦序盤は戦いながら、試合感覚を取り戻していった。

 エース・大野は「徐々に調子を上げていって、6月の大学選手権で一番の状態にできれば」と常々話していた。その言葉通り、4月24日の大谷大戦で7回参考記録ながら完全試合を達成した。その前週に行われたびわこ成蹊スポーツ大戦では巨人の清武英利球団代表が視察。「18や21番のエースナンバーを与えられる選手を探しているが、その候補のひとり」とコメント。ほかにも広島など複数の球団がほぼ全試合を視察するなど、プロ側の注目度もが然高くなっている。

「もう負けない」志願の3連投で全国切符を

完封勝利で全国を決め胴上げされる大野 【松倉雄太】

 そんな大野、佛教大の真価が問われたのが5月22日からの最終節の京都学園大戦だった。ともに8勝1敗、勝ち点を取った方が優勝という大一番。
 第1戦。「いつもと雰囲気が違っていた。気持ちで負けていました」という大野は、立ち上がりから京都学園大打線の気迫に押され8安打を浴びて3失点。王手をかけるはずが、逆に窮地(きゅうち)に陥る敗戦を喫した。
 今季の佛教大が抱えた泣き所。それは大野同等の信頼を得ていた、第2戦を任せるべき投手が抜けたことだった。第1戦の後、大野の体のことを考えた菊野監督代行は連投させるべきかためらっていた。もう一つ負ければ優勝への道が閉ざされる。
 しかし、大野本人は覚悟を決めていた。「行かせてください」と直訴。「(連投で)ボロボロになっても優勝したい」。そんな思いが通じたのか、第2戦は雨で2日間順延することになる。

 中2日空いた第2戦。大野はチームメートに「もう負けないから」と言葉をかけた。菊野監督代行はその時の選手たちの表情を見て「いい顔つきをしている。大丈夫」と確信した。マウンドを託したのはもちろん背番号19のエース。
「自分のこれからの人生を考えても、こんな所で負けるわけにはいかない」
 初戦とは違い気持ちで京都学園打線を上回った。2点を失ったものの、散発の3安打で完投。勝負を第3戦に持ち込んだ。
 その第3戦も球場使用の関係から中1日空いた。「ツイてるのかな」と笑みを漏らした大野は「今度は完封しかない」と自分に言い聞かせてマウンドに上がった。
 立ち上がりから持ち味の早いテンポ、球のキレとも抜群で相手打線を圧倒。スピードでも4回に今季最速タイとなる147キロを計測した。終わってみれば二塁に走者を背負ったのはわずか1度だけという圧巻のピッチング。視察したスカウトもうなる、有言実行の完封劇でガッツポーズを見せた。
「最後にエースとしての役割を果たせたと思う」と話した大野。
「私自身が大野に助けられました」とシーズン中に6キロやせたという若き指揮官はエースに握手を求めた。
「菊野さんを選手権に連れていけて本当に良かった」
 大野が発した言葉は佛教大4年生全員の気持ちでもある。

全国の舞台で実力が試される大野

「どこまで通用するか」と勝負の春へ気合の入る大野 【松倉雄太】

 大野自身、昨秋はプロ注目の投手として「土台」に乗ったシーズンと捉えている。勝負はこの春、「全国の人に大野雄大はこんなものかと思われるか、やっぱりすごいなと思われるか」と話す全国の舞台が待ち受けている。
 初戦は仙台六大学代表の東北福祉大に決まった。「2年生の秋に神宮大会で対戦させてもらった。能力の高い選手が多く、ことしの大会でも優勝候補のチームだと思っています」と冷静に分析した大野。今春のリーグ戦で3本塁打を放った平野和樹(4年・平安高)ら高校時代から馴染みのある選手も多い。「どこまで自分の力が通用するか」と背番号19は東京ドームでの対戦を楽しみにしている。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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