カペッロ式、イングランド代表選出方法=東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

23名はかなり前から決まっていた?

けがのバリー(写真)が本大会で活躍できるかは未知数。それでも招集するあたりにカペッロの寵愛ぶりがうかがえる 【Getty Images】

 6月1日現地時間午後、イングランド代表監督ファビオ・カペッロは、南アフリカの本大会に帯同する最終メンバー23名を発表した。

GK:
ジョー・ハート、デイヴィッド・ジェイムズ、ロバート・グリーン
DF:
アシュリー・コール、リオ・ファーディナンド、ジョン・テリー、レドリー・キング、マシュー・アップソン、グレン・ジョンソン、ジェイミー・カラガー、スティーヴン・ウォーノック
MF:
スティーヴン・ジェラード、フランク・ランパード、アーロン・レノン、ジェイムズ・ミルナー、ジョー・コール、マイクル・キャリック、ショーン・ライト=フィリップス、ギャレス・バリー
FW:
ウェイン・ルーニー、ピーター・クラウチ、ジャーメイン・デフォー、エミール・ヘスキー

 おそらく、目の肥えたファンならずとも、対メキシコおよび日本のウォームアップマッチに対するカペッロのアプローチには奇異なものを感じ取ったに違いない。あえて言うなれば、このイタリア人監督の眼中には、そこに「完成形」や「ベストアクト」にたぐいする狙いなどなかったようにすら見える。
 事実、彼はメキシコ戦の数日前、はっきりと「実験をする」と述べていた。そのココロはもちろん、予備選考30名から「不運な7人」をふるい落とすための、彼なりの“根拠”探し――とは言っても、その根拠とは必ずしも、この2試合で飛び出した「不備なプレー」ではなかったことも押さえておくべきだろう。そして、その根幹にはカペッロが今も最も気にかけているプレーヤーの“存在”があった。シーズン終盤のトテナム戦で足首のじん帯損傷を負ってしまったギャレス・バリーである。
 これまでの言動からもうかがい知れるように、カペッロのチーム戦術にとってバリーはほぼ不可欠の役割を担ってきた。なぜなら、バリーこそ、マクラーレン時代から各方面でディベートのテーマとなってきた「ジェラードとランパードの両雄並び立たず」なる難問に、ほぼ完ぺきとも言える解答を提示してきてくれたからだ。

カペッロの飽くなきバリーへの“信仰心”

 ここで簡単におさらいしておくと、ジェラード=ランパード問題とは、共に中盤センターの要を務めるにふさわしいと見られる二人が、いずれも「アンカー役」にぴたりとはまらない、ないしは、それでは能力を生かし切れないという「もどかしさ」だった。それが、少年時代から万能アスリートとして鳴らし、プロ入団後もCB、SB、左ウィングなど多彩なポジションをそつなくこなしてきたバリーという“緩衝材(クッション)”をかませる(間に入れる)ことによって、中盤を軸とする攻守のバランスが取れ、ボール回しから攻撃の組立ても、ぐんとよどみなく機能するようになったのである。
 そのバリーが、少なくとも万全の状態では臨めそうにない、と想定せざるを得なくなった今、カペッロは「バリー不在」のセカンドプランを用意し、そのバリエーションを幾つか編み出しておく必要性に迫られた。つまりそれが、メキシコ戦におけるキャリックとミルナーの中盤センターコンビであり、日本戦でのトム・ハドルストーンの起用だったと考えられるのだ。すなわち、あくまでも「実験」である。

 はたして、その実験結果は(特に前者はひねりすぎだとしても)いずれもはかばかしくなかった。むろん、この2試合で30名をできる限り使うためのアレンジという要素もあったと思われるが、特に右ワイドを固めておきたい(テオ・ウォルコット、レノン、ライト=フィリップス、あるいはミルナーのいずれを“メイン”に固定するか)意味もあっての苦肉の策という一面もあったようだ。その関係で、日本戦ではあえてレノンを慣れない左ワイドに置くという実験も行われた。

 結局、あくまでもこの2試合での実験からはじき出された明瞭な一つの結論は、バリー不在の場合のアンカー役はジェラードが最適任、レノンを使う場合はやはり右ワイド、思った以上に体調良好のジョー・コールは、ミルナーやライト=フィリップス同様に、かく乱役のチャンスメイカーとして十分に機能する――と言い切ってもいいだろう。
 一方、スピードだけならナンバーワンでも“その次”に難があるウォルコット(日本戦では2人掛かりの密着マークに遭ってほとんど何もできなかった)、逆に手堅いアンカー役としての威圧感はあってもスピードに難があるハドルストーンの評価を下げざるを得なくなり、この両名が、レイトン・ベインズ以下とともに“アンラッキー7”に加わる結果となってしまった。ただし、日本戦の後でさえ「同試合での出来事が最終選考に影響することはない」と述べたカペッロの言葉が本心からだとすれば、やはりこの2人は、スコット・パーカー、アダム・ジョンソン、さらにはダレン・ベントまで含めて、カペッロの飽くなきバリーへの“信仰心”の割を食ったと言えなくもないのではなかろうか。

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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