カペッロ式、イングランド代表選出方法=東本貢司の「プレミアム・コラム」

東本貢司

選出方法はフェア?

カペッロ(写真)は30名を選出した時点で「ベスト23」を見切っていた? 【Getty Images】

 パーカー、A・ジョンソン、ベントの除外には、多くの現地ファンから異が唱えられている。パーカーとベントについては「キャリックとヘスキーを残すよりはずっとまし」という声が大半を占めた。確かに、メキシコ戦のキャリックはうっかりミスもあって動きも今ひとつだった。ヘスキーに至っては日本戦の終盤にほんの少し顔見せした程度である。いやそれ以上に、この両名は特に今シーズン後半は各クラブで出場が限定されていた事実がある。片やパーカーとベントはほぼフル出場、前者は残留争いに明け暮れたウェスト・ハムを支え続け、後者は国産プレーヤーではルーニーに次ぐゴール数をマークしてきた。要するに、フェアとは言えないじゃないかというのが反論の主旨である。

 だが、A・ジョンソンの見送りについては「惜しい」という“感傷”がほぼ殺到状態なのだ。1つには、バリーを除けば中盤の左利きは彼しかいないという理由があり、また、たとえ10分足らずだったとはいえ、メキシコ戦で才能の片りんを見せたではないかという声も多い。確かに、彼のフル代表出場経験はわずかしかなく、始まったばかり。しかし、それこそが「残されてしかるべき積極的根拠」だとする“超常的”な意見もあるのだ。

 1966年大会優勝の象徴となった「決勝ハットトリック伝説」の英雄、ジェフ・ハーストは、自らの体験をもとにA・ジョンソン除外に肩を落としている1人である。
「当時、わたしとマーティン・ピーターズ(同じく同決勝で貴重なゴールをマーク)は、直前の5月に初代表入りした“新参者”にすぎなかった。そんな2人が最後にはヒーローになった。アルフ・ラムジー(当時の監督)にどんなひらめきがあったのかは知らないが、大舞台、大試合には得てしてそういうことが起こり得る。アダムにはあのころの自分やマーティンと同じ可能性、“におい”を感じるのだが……」

 そう言えば1990年大会のイタリアを準決勝に導いたサルヴァトーレ・スキラッチ、ロベルト・バッジオも最初は控えだった。そして、ハーストはあきらめきれずにこうも言うのである。
「同じ90年大会でイングランドのベスト4進出に貢献したデイヴィッド・プラットは、開幕直前に故障したブライアン・ロブソンの代役として急きょチームに加わった“ワイルドカード”だった。今はただ、アダムにもその運が回って来ることを祈りたいくらいだ」

クラブでの実績 < 代表チームでの熟練度

 ハーストの感傷には心情的に100%同意する筆者ではあるが、カペッロの立場に立ってみれば、バリーへのこだわりは別にしても、分からなくはないとも思うのだ。
 対メキシコ、日本の両試合、あるいは3月のエジプト戦までも含めて、いずれの後半を振り返っても明らかなように、チーム全体に明らかに生気が、士気が蘇り、いわばイングランドらしい攻守(特に攻撃)が展開された最大の要因は、ジェラードの“攻撃的アンカー”としての影響力であり、ミルナー、ライト=フィリップス、J・コールらのアグレッシブな自在性だった。そこにカペッロが活路を見いだし、期待をかけているのは容易に想像できる。おそらくは、J・コールの“意外な復活”が捨て難くなったために、A・ジョンソンは水際ではじき出されてしまったのだろう。なぜなら、カペッロは日本戦直前まで言い続けていたのだ。「アダムは実にいいプレーヤー。(フル代表)経験不足はそう気にしなくてもいいと思う。そうでなければそもそも(30名のリストに)選ぶはずがない」
 はたして、その真意は「バリーが無理だったならば当然……」だったのだろうか(4年前にウォルコットを抜てきしたエリクソンなら迷わず……だったかもしれない)。

 それでも、「特別なにおいのする」A・ジョンソンを除けば、ハーストはカペッロの選択をほぼ全面的に支持している。彼によると、66年のラムジーも「シーズン中のクラブでの活躍・貢献度よりも、代表チームとしていかにまとまり、機能し、結束できるか、できているかを基本にメンバーを選んだ」のである。
 端的に、“新参者”のドーソンは確かにほぼシーズンを通して代行キャプテンの役目を務め切り、スパーズの4位躍進に貢献した。だが、ファーディナンドとテリーが不動のペアである以上、控えにはこれまでもその穴を実際に補い、代表チームにすっかり溶け込んでいるアップソンの方に、どうしても軍配が上がってしまうということなのだ(ここでも、ファンの主張は「アップソンよりドーソン」)。パーカー、ベント、然りである。

 要するに、カペッロは30名を選出した時点でほぼ、6月1日の「ベスト23」を見切っていたと言えなくもない。つまりは「クラブでの実績よりも代表チームでの熟練度」。あとはつまり“意外な発見”を見いだしてはかりに掛けるだけだった?! そして、それが結局、最後の最後で「A・ジョンソンからJ・コールにスライドする」運命を呼び込んだのだとしたら……。ならば、あくまでも現時点で称揚すべきキーマンはJ・コールだということになろうか。もっとも個人的には、以前からミルナーにその期待をかけてきた。さて、カペッロがどちらを重用することになるのかも、本番での“通な”見どころになりそうだ。

<了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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