エナンvs.シャラポワ、元女王の因縁の邂逅=全仏テニス第8日

内田暁

元女王同士のあまりに早い対戦

エナン(右)とシャラポワの対決は、エナンが制し、4回戦進出を決めた。元女王同士の互いに負けられぬ理由、そして因縁とは? 【Getty Images】

 テニスの大会においては時に、1つの対戦が、とてつもなく趣深く感じられることがある。それはその試合に、両選手の人生の交錯を見出した時だ。どのようなレベルの大会の、どの段階で対峙(たいじ)するのか……それらさまざまな状況や要因が、おのおのの選手の歩んできた道程を、色鮮やかに浮かび上がらせることがある。

 全仏オープンテニスの女子シングルス3回戦で対戦したジュスティーヌ・エナン(ベルギー)と、マリア・シャラポワ(ロシア)。この二人の対戦は、今大会で10回目を数える。顔合わせそのものに、目新しさはない。だが、過去9回の対戦がいずれも準々決勝以上のステージだったのに対し、今回は大会序盤の3回戦。いずれも世界1位を経験した人気選手としては、あまりに早い交戦である。

 もちろん、4年前には全米オープン決勝のカードだった顔合わせが、この早い段階で行われるのには理由がある。エナンは2年前に一度引退し、今年の1月に復帰したばかり。復帰後に目覚ましい活躍をしているものの、世界ランキングは現在23位で、今大会でのシード順位も22位である。
 対するシャラポワも、約2年前に肩の故障が原因でツアーを離れ、本格的に競技に戻ってきたのは1年前のこと。さらに今年の3月にはひじを痛め、6週間の休養を余儀なくされていた。要は両選手とも、理由や状況は異なるものの、この2年間の多くをラケットを握らぬままに過ごし、そして今、本格的に復帰を目指すその中道での邂逅(かいこう)となったのだ。

互いの負けられぬ理由

 先述したとおり、両者の対戦は過去9回あり、その内訳はエナンの6勝3敗。だが、最後の対戦となった2年前の全豪オープン準々決勝では、シャラポワが6−4、6−0と圧勝している。近頃になりエナンは、このときの状況を「当時の私は、空っぽだった」と回想した。実際エナンは、この敗戦の約3カ月後に引退した訳だが、エナンのコーチのカルロス・ロドリゲスは後に、「あのころのエナンはモチベーションを失っており、全豪に出場するかどうかすら悩んでいた」と明かしてくれた。つまりは、あのシャラポワ戦がこそがエナンにとり第一のキャリアの“終わりの始まり”であり、故に、完全復活を果たす現在においては、払拭(ふっしょく)しなくてはいけない悪夢でもある。

 シャラポワにとっても、エナン戦は常に特別な意味を持つ。2年前の全豪でエナンに完勝したシャラポワは、その勢いのままに同大会を制することに成功。また、その以前にエナンに勝利したのは、06年全米オープンの決勝だ。グランドスラムでエナンに勝つことは、大会の覇権へと直結する。そして全仏は、シャラポワが唯一手にしていない4大大会タイトルである。4大大会すべてを制する“キャリアグランドスラム”を狙うシャラポワにとって、全仏4回優勝の実績を誇るエナンは、どうしても乗り越えなくてはならない難関なのだ。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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