輝ラリ末脚エイシンフラッシュ!“史上最高”ダービー制す

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内田博幸が駆る7番人気の伏兵エイシンフラッシュが“史上最高”ダービーを制す! 【スポーツナビ】

 3歳馬の頂点を決める競馬の祭典・第77回GI日本ダービーが30日、東京競馬場2400メートル芝で開催され、内田博幸騎乗の7番人気エイシンフラッシュ(牡3=藤原英厩舎、父King’s Best)が優勝した。同馬は中団の最内で脚をタメて迎えた直線、馬場の真ん中を切り裂く上がり3F32秒7の一撃で真一文字の伸び。先に抜け出した2歳王者ローズキングダムとの叩き合いを制し、2007年に生産されたサラブレッド系7611頭(持ち込み馬、輸入されたマル外馬含む)の頂点に立った。良馬場の勝ちタイムは2分26秒9。

 エイシンフラッシュはJRA通算7戦4勝。これがGI初制覇となり、重賞は今年1月のGIII京成杯以来となる2勝目。騎乗した内田博幸は6回目の挑戦にしてうれしい初勝利を飾り、現役7人目となるダービージョッキーの仲間入りを果たした(JRA所属騎手に限る)。また、同馬を管理する藤原英昭調教師も、これが5度目(延べ6頭目)の挑戦で初制覇。現役では11人目のダービートレーナーとなった。

 一方、後藤浩輝騎乗の5番人気ローズキングダム(牡3=橋口厩舎)は、叩き合いに競り負けクビ差の2着に惜敗。1番人気に支持され史上22頭目の春二冠を目指した岩田康誠騎乗の皐月賞馬ヴィクトワールピサ(牡3=角居厩舎)は、ローズキングダムから1馬身3/4差遅れる3着で父子二冠はならず。また、05年ディープインパクト以来史上11頭目となる無敗のダービー制覇に挑んだ横山典弘騎乗の2番人気ペルーサ(牡3=藤沢和厩舎)は、ゲート出遅れが響いたか6着に敗れている。

見た目の地味さで伏兵扱い、しかし隠された真実の脚とは?

殊勲の金星を挙げた内田博は、12万観衆の声援に応え大きくガッツポーズ 【スポーツナビ】

 史上最高メンバーと言われていた第77回日本ダービー。勝ったのは二冠に王手をかけていた1番人気ヴィクトワールピサではなく、無敗制覇を狙った2番人気ペルーサでもなければ、復権に闘志を燃やした2歳王者ローズキングダムでもなかった。

 内田博が駆る7番人気エイシンフラッシュ。まさか、と言えば失礼な話だが、戦前の下馬評を大きく覆す意外な伏兵の台頭に、東京競馬場に詰め掛けた12万観衆がどよめいた。
 「気持ち的には一発あるぞ、と思っていました。もちろん、17頭全馬にチャンスはあるわけですが、僕の馬はその中でもチャンスの大きい方だと思っていたので」
 1月にGIII京成杯を勝ち、中間の熱発アクシデントでそれ以来3カ月ぶりの実戦となったクラシック第一冠・GI皐月賞でも、ヴィクトワールピサから0秒2差の3着に好走。「体調面の不安もありながら、あれだけのパフォーマンス。それにあの揉まれる競馬をやったことが、絶対に今回生かされると思っていました」と内田博は、皐月賞のレース内容と結果がダービーへ向けて大きな自信になったことを振り返った。

 それでも、ダービーでの単勝オッズは“伏兵”の1頭にすぎない7番人気の低評価。それもこれも、勝っても小差というエイシンフラッシュのどことなく地味な競馬が、印象を落としていたせいかもしれない。そんな相棒の、見た目の特徴に隠された真実を内田博はこう明かした。
 「意外と思われるかもしれないですが、この馬は並ぶ時の脚がものすごく速いんですよ。ダラダラと伸びている印象があると思うんですけど、実はそうじゃなくて、前にいる馬をかわすと真剣に走らなくなるんです」
 楽に勝てるなと思っても、先頭に立った途端に走るのをやめてしまう。そんな悪い癖が、エイシンフラッシュの本当の強さをぼやけさせていた。だが、大一番ダービーの舞台では、その特徴を最大限に生かしきる展開で、大金星を引き寄せたのだった。

「勝つべき道が開いた」眼前に広がったビクトリーロード

超スローペースの中、エイシンフラッシュが繰り出した上がり3Fはなんと32秒7! 【スポーツナビ】

 「勝ちに急ぐといいレースができない。馬のリズムや流れに合わせていきました。ペースがかなり遅いなと感じていましたけど、そこは馬を信じていましたし、有力馬が前にいたのでそれを目標にすることができましたね」
 1枠を引いてラッキーだと思った、とも内田博。今週から仮柵が外へ移動したCコースとなり、ラチ沿いはグッドコンディションに復活。その馬場のいい最内ピッタリの経済コースで脚を溜め、最後の直線525メートルにすべてをかける。

 「直線はやっぱり外に出したいと思っていたんですが、いい具合に前が開いていって、勝つべき道が開いてくれましたね」
 あまり早く上がりすぎると気を抜いてしまう。そんな愛馬の癖を完全につかんでいる内田博だからこそ、ビクトリーロードが眼前に広がっても焦らずに「ジワジワと上がっていきました」。右前方には王国復活へ執念を見せた2歳王者ローズキングダムが押し切り態勢に突入していたが、これもエイシンフラッシュと内田博にとって幸運だったという。
 「いい形で後藤君が抜け出していてくれたんで、僕の馬もそれを最後まで目標に走ってくれました。ローズキングダムが前にいてくれたからこそ、エイシンフラッシュも伸びてくれたんだと思います」

 究極の上がり対決を制する3F32秒7の差し一撃で、ゴール寸前キッチリ捕らえるクビ差の大勝利。これまで挙げてきた3勝はクビ、クビ、ハナ差で、今回の4勝目もまたクビ差。エイシンフラッシュにとっては“これしかない!”という勝ち方であり、言い方を変えれば“らしさ”が100%現れたレースだった。

年明けの落馬骨折から内田博、完全復活宣言だ

出だしでつまずいた2010年だったが、内田博は完全復活を宣言 【スポーツナビ】

 「よくやったと思いますね。ダービージョッキーの称号に恥じないように、これからも精進していきたい」
 地方・大井競馬から08年に転籍し、今年が3年目。昨年は武豊の牙城を崩して全国リーディングジョッキーになる大活躍を見せ(146勝)、当然今年にかかる期待も大きかった。だが、年が明けてすぐの1月11日の中山競馬第4レースで9頭が落馬する大事故に巻き込まれ、内田博は左腕を骨折。約1カ月半、戦線離脱を余儀なくされた。
 「落馬があって、有力馬がすべて手を離れてしまった。もちろん自分は騎手ですから乗り替わりがあるのは当然のことだと思っていますが、悔しい思いもしていた。そういう思いを胸に、いつかどこかで大きな仕事をやってやるぞと思っていたんですが、まさかこんな大きな勲章をもらえるとは思っていなかったですね」
 今年のJRA・GIはこれが初勝利だが、意外にもJRA重賞も今年初。お待たせしました、という笑顔で「ようやく自分の乗り方ができるようになってきたかな」と全快宣言も飛び出した。

 地方、中央の全国リーディングを獲り、ダービージョッキーの栄冠もその手に収めた内田博。それでも、勝利に対する貪欲さは失わない。ダービーもこれが最初で最後ではなく、2つでも3つでも勝ち続けたい。
 「あの大観衆の中でウイニングランができて……。ダービーは1度勝つと病み付きになって、2度、3度と勝ちたくなると言われていますが、本当ですね(笑)」

 当然、愛馬エイシンフラッシュとはこの秋、さらに来年以降も最強コンビとして君臨するつもりだ。
 「まだまだこれからの馬。菊花賞の3000メートルも十分対応できますし、もっと成長していくと思う。これからが楽しみですね」
 伏兵から一気の天下獲りだっただけに、フロック視もされるだろう。しかし、着差はどうあれこのダービーのように“勝つ”ことで、外野の視線を変えさせればいい。もちろん、秋にはライバルたちとの完全決着だ。ハイレベル3歳馬の主役の1頭として、いや真打ちとして、内田博とエイシンフラッシュが2010年競馬シーンをさらに盛り上げていく。

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