球児たちに伝えたい“全力疾走”の大切さ=タジケンのセンバツリポート2010

田尻賢誉

内角ストレートで押しまくった興南高・島袋

興南高・島袋は内角を突く強気のピッチングでチームを初優勝に導いた 【写真は共同】

【日大三高 5−10 興南高】

 いいピッチャーですね――。
 日大三高(東京)の小倉全由監督が思わずそうつぶやいた。
「あれだけ右バッターにも左バッターにもインコースに投げられるんですから」
 もちろん、これは興南高(沖縄)・島袋洋奨を評してのもの。
 2本塁打を浴びせたチームの監督がそう評するほど、島袋の球は際立っていた。ポイントとなったのは、大会前に不安を口にしていた右打者への内角ストレート。結果的に自らのけん制悪送球で失点したが、2回無死満塁での内角攻めは見事だった。佐野友彦には3球連続内角ストレートでどん詰まりのファーストファールフライ。鈴木貴弘も同じ球でサードフライに打ち取った。日大三高打線はベース寄りに立って内角を投げにくくさせていたため、死球で押し出しの危険性もあったが、強気で押しまくった。

 島袋は6回までは7安打を許したが、7回以降は1安打。球速が増し、内角ストレートに加えて高めの速球に力が出た。5回までの15アウトのうち、三振が5つ、9つがフライアウトと日大三高打線は低めを捨て、高めの球を打つことを徹底していた。それが2本塁打にもつながったが、終盤は高めのボール球を振らされる場面が多くなった。
「ウチの選手があれだけ高めの見極めができないことはないんですけどねぇ。やっぱり、いいボールでしたね」(小倉監督)
 決勝で島袋が投じたのは198球。5試合をほぼ1人で投げ切ったにもかかわらず、延長12回にも140キロ台を連発。最後までスタミナは切れなかった。
「198球投げたのは知りませんでした。今日はホントに気持ちで投げた。(最後に)球速が上がったのも気持ちの面です」
 そう話す島袋にパワーを与えたのはスタンドの力。4万3千人の観客のほとんどが興南高の応援。立ち上がっての大声援と指笛に日大三高の投手・山崎福也が「迫力があって集中しても耳に入ってきた。甲子園が揺れる感じがしました」と言うぐらいの圧力。島袋は「スタンドの応援のおかげ」と感謝したが、スタンドとグラウンドが一体となってつかんだ初優勝だった。

日大三高で光った鈴木の好走塁

 日大三高で光ったのは9番の鈴木貴弘。6回1死からセカンド後方にフライを打ち上げたが、あきらめずに全力疾走。セカンドが落球するのを見ると、一気に三塁を奪った。続く小林亮治のスクイズ(内野安打)で同点に追いついたが、スクイズができたのは鈴木が三塁を取ったからこそ。大きな、大きな走塁だった。
「監督さんからは『フライを打ってもあきらめないで走れ』と言われています。打った瞬間は『あっ』という気持ちもありましたけど、走っている中でセカンドとライトが落下地点に来ているようには見えなかった。コーチャーも回してましたし、落ちたボールも横に転がったので3つ行こうと決めていました」(鈴木)
 凡打でもあきらめるな。
 いくらそう言われても、いざ実行するのは難しい。だが、それをサボらなかったからこそ野球の神様は鈴木に味方した。

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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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