翻ろうされたコートジボワール代表=エリクソン新監督任命の背景

木村かや子

必要とされるディフェンス面の弱点克服

タレントぞろいのコートジボワールはアフリカ開催のW杯で真価を発揮できるか 【Photo:アフロ】

 最後に、“エレファンツ”が抱えるピッチ上での問題は何なのか。06年W杯に続き、今回もブラジル、ポルトガル、北朝鮮と一緒の非常にタフなグループを引き当てたコートジボワールにとっては、それでなくとも道は険しい。しかし彼らの今の課題は、何より持てる潜在能力を最大限に発揮すること、そのために然るべき組織力を身につけることだと言われている。
 攻撃面での潜在能力に不足はないコートジボワールだが、専門家がそろって指摘する彼らの弱点はディフェンスだ。開始4分に先制し、試合終了1分前に逆転ゴールを挙げておきながら、延長の末にアルジェリアに2−3で敗れたアフリカ選手権準々決勝では、その失点のすべてがディフェンスのミスによるものだった。

 その点を自覚しているせいか、乗っているときはいいが、押し込まれたり、厳しい局面で失点するなどしてプレッシャーがかかると、パニックに陥る傾向も。ベルギー1部リーグの中堅クラブ、スポルティング・ロケレンでプレーするGKブバカル・バリーが、チーム内で最も格の低い選手であることがしばしば指摘されるが、ディフェンスの問題は個人の格不足にとどまらない。守るべきときに守り切るための守備の組織力を設置することが必要であり、実際、エリクソンの就任に際し、前述のバリー自身が次のように指摘していた。
「新監督が、守備面でのオーガニゼーションを整えてくれるよう祈る。僕らは質の高い選手を擁しているが、よりよく組織する必要があるんだよ」

 戦術的にきちんと組織され、押し込まれたときにどう対処すべきかを知っていれば、慌てることなく前向きな姿勢で守備を行うことができる。守備が安定すれば、攻撃もより効果的に機能するだろう。加えて、組織の整理は守備だけでなく、アフリカ選手権の過程で垣間見えた、総合的機能不全の改善につながるはずだ。

 スピード、パワー、技術を備え、欧州で活躍する選手が多いことから、サハラ以南のアフリカ代表としては比較的戦術理解力が高いとされるコートジボワールだが、ここにきて、スピードと性急さを取り違えていると指摘されるケースが何度か起きていた。実際、欧州ベースの主力選手の何人かからは、ハリルホジッチ監督時代から、これまでの4−1−2−3ではなく、4−4−2の方がいいのではという声が上がっていた。そうすれば、やや前方に傾き過ぎたこのチームに、よりバランスを与えられるというのがその理由である。

大きなことをやってのけるために

 システムの見直しから戦略と組織の整理、何より常に一緒にプレーしているわけではない選手たちの集団に方向性を与えること――新監督の仕事は山積みだ。果たして、5月末からのキャンプでどれほどのものを築けるか。エリクソンに課せられたものが、見た目以上の大仕事であるのは間違いない。
 さらに、個々の部品を組み合わせ、真のチームを作ることが、指揮官に不可欠な仕事であると言われている。これも前述のフェレ氏の見解だが、アフリカ選手権の間、代表はアビジャンのアカデミー出身の選手(トゥーレ、コネ、ゾコラ)と、フランスで育ったドログバ、ティエネ、またオランダ国籍取得も考えたカルーらによるドログバ派に分かれていたというのだ。

 概して友情で結ばれ、団結力には問題がないと言われるアフリカ勢には珍しい話だが、これもスター選手が多いことの裏返しなのか。しかし、この話が事実だとしても、監督なしの不安な期間が、選手間の団結を促したと思わせる兆候もある。ドログバが、W杯に向けての決意を語るにあたり、こう言っていたのだ。

「ここ1カ月、ほかの選手たちと頻繁に話した。06年の僕らのパフォーマンスは、目標を達成できるだけのレベルにはなかった。真剣に受け止められるチャレンジャーになるには、もっとプレーレベルを向上させなければならない。スベンが、僕らにチームスピリットと方向性を与えてくれるよう祈っている。僕らは大きなことをやってのけるために南アフリカに行くんだ。これは僕1人が言っていることじゃない。話した時に、皆がそう思っていることが感じられたんだ」

 コートジボワールが大きな驚きを実現する可能性は、エリクソンが強く信じていることでもある。
「われわれの組が“死のグループ”と呼ばれていることは知っているが、それは、チャレンジがいっそうやりがいのあるものだという意味にほかならない。ブラジルは優勝候補で、ポルトガルは欧州の強豪だ。しかし、今大会はアフリカ大陸で行われる初めてのW杯であり、6カ国のアフリカ代表が参加する。わたしは、そのうち2、3が大きな驚きを生み出すだろうと信じている。われわれは、自分たちが間違いなくそれをやってのける国の一角となれるよう、全力を尽くさなければならない」

 実は、エリクソンはイギリスのBBCに「報酬はそれほどよくない」と漏らしている。ヒディンクほどではないものの、やはり高い報酬を要求することで知られたエリクソンがそれでもこの任務を引き受けたのには、それなりの理由があるはずだ。もし「W杯で良い活躍を見せるのが最も重要なことなのだ」という彼の言葉を信じるなら、彼は自分の監督としての再奮起を、コートジボワール代表と臨むこのW杯での挑戦に賭けようと決めたのかもしれない。

 コートジボワール代表は、まだ噴火していない火山だ。今、このたぐいまれな潜在能力を擁した代表が、アフリカ大陸初のW杯というまたとない舞台に挑もうとしている。その才能と好機が浪費されてしまうとしたら、それはサッカー界にとっても大きな損失だ。それだけに、エリクソンの手腕に期待をかけているのは、母国の民だけではないだろう。

<了>

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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