接戦で光った広陵の“配球の妙”=タジケンのセンバツリポート2010 Vol.7
第1打席、相手の頭に残したスライダー
新谷の好リードにも助けられ、宮崎工高を完封した有原。広陵高は8強進出を決めた 【写真は共同】
いつまで待てばいいのか。
狙っていた獲物は、とうとう姿を現さなかった。
0対0で迎えた5回表2死二塁、宮崎工高(宮崎)の攻撃。打席には194センチ、90キロと大柄な新見航希。新チーム結成後のチーム本塁打4本のうち、2本を放っている一発のある打者だ。次の打者は昨秋の打率が2割1分2厘の投手・浜田智博だが、広陵高(広島)の有原航平と新谷淳のバッテリーは新見との勝負を選んだ。
初球。ストレートが外角へ来た。甘い球だったが、新見は見送りワンストライク。
2球目。再びストレートが外角へ。新見はこれも見送ってツーストライク。
そして、3球目。またもストレートが外角へ。新見はようやくスイングしたが、打球は平凡なライトフライに終わった。
さらに0対0のまま進んだ8回表。先頭の楠央貴が絶妙なバント安打を決め、無死一塁と先制のチャンスで新見が打席に入る。新見にバントの気配はない。
初球。外角低めにストレートが決まりワンストライク。
そして、2球目。またもストレートが来た。スイングする新見。だが、初めて来た135キロの内角球に詰まった打球は、サードへのゴロとなり、5―4―3と渡るダブルプレーになった。
2打席目、3打席目ともに全球ストレート。
なぜ、ストレートばかりなのに打てないのか。
それは、1打席目に理由がある。
3回表、新見は先頭打者として打席に立った。
初球。外角スライダーを空振り。
2球目。外角スライダーを空振り。
3球目。外角スライダーを見送り(ボール)。
4球目。外角スライダーを見送り(ボール)。
5球目。外角スライダーを見送り(ボール)。
実に5球連続スライダーだったのだ。
結局、新見は6球目に高めのストレートをファウルしたあと、7球目の高めストレートを空振りして三振に倒れるが、頭に残ったのはスライダーだった。
試合前、新見は有原対策をこう考えていた。
「相手はスライダーがいい。それを見極めて、しっかりまっすぐを狙っていこう」
ところが、第1打席の配球を見て、この考えが揺らいだ。
「自分にはスライダー攻めで来るかもしれない」
こう思ったことで、ストレート狙いでいくことができなくなってしまったのだ。
相手を迷わせた大胆な“徹底リード”
「(第1打席では)わざとスライダーを多めにしました。最初にスライダーばかり投げれば、頭に残ると思ったので。そのあとは有原を信じて、まっすぐで全部押しました。有原はまっすぐが一番いいんで。ダブルプレーは狙い通りですね」(新谷)
1打席目で2球続けて空振りしているように、実は新見はスライダーが苦手。むしろ、ストレートを得意にしている。だが、1打席目に徹底してスライダーを見せたことで、得意なはずのストレートに反応が遅れ、とらえることができなかった。
「最初の打席でスライダーが良かったので、次からスライダーが来るかなと思ったんですけど……。全部まっすぐでした。(3打席目は無死一塁で強攻策)監督が任せてくれたのに……。迷ったまま打席に入ってしまいました。思い切りよく初球から振ればよかった」(新見)
3打席合計12球。そのうちの初めの5球がスライダーで、その後の7球は全てストレート。間に違う球種を挟まず、同じ球種を徹底して続ける極端な配球だった。
そんな大胆な攻めを成功させたのは、一にも二にも第1打席での配球。スライダーを意識させるだけさせ、あとはいつ来るのか、いつ来るのかと思わせて使わない。高校生の捕手の場合、打者のタイミングが合っていないにもかかわらず、わざわざ違う球種を挟み打たれてしまうことがよくある。だが、新谷はとことん徹底することで、エサをまき、相手を迷わせた。
いつまで待てばいいのか。
待っていた球はずっと来ない。
いつまで続くのか。
待っていない球はずっと来る。
勝負は1打席だけではない。ならば、余裕がある状況であとの打席にどうつなげるか。 勝敗を分けたのは、新谷の先を見据えた“徹底リード”の力だった。
<了>
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