高校球児たちよ、カバーリングを怠るなかれ!=タジケンのセンバツリポート

田尻賢誉

カバーリングミスでやらなくていい1点を

5回表敦賀気比2死二塁、二塁への悪送球で金山(中央)が生還し肩を落とす捕手木内。左は投手五明=甲子園 【共同】

 誰もいない。
 逃げるように転がる白球を、慌てて追いかけるしかなかった。

 28日のセンバツ第2試合、花咲徳栄高の5回の守り。
 2死二塁から敦賀気比高・金山欣弘がレフト前へ安打を放つ。レフトが懸命にバックホームするが間に合わない。打者走者の金山は、本塁送球の間に二塁を狙った。
 金山を刺すべく、返球を受けた捕手の木内達也が二塁へ送球する。だが、ボールは高くそれた。センターの定位置付近を目がけて、勢いよくボールが転がる。そこには誰もいない。結局、ボールはフェンスにまで到達し、金山はホームイン。花咲徳栄高は、やらなくてもいい1点を与えてしまった。

 レフト前への当たりのため、センターの戸塚瞬はレフトの後ろへバックアップに走る。ライトの橋本祐樹は、レフトが本塁送球をあきらめて二塁に返球する場合に備えてレフトと二塁ベースの延長戦上に走った。
 ここまではいい。
 ところが、このあとが問題だった。レフトが捕球した時点でセンターのバックアップは必要なくなる。その時点でセンターは次のプレーに備えなければいけない。ライトも同様。レフトが本塁に送球した時点で次のプレーに移ることが求められる。
 次のプレーとは、センター、ライトともに「打者走者が二塁進塁を狙った場合に捕手が二塁送球する」ことに備えること。それまで走っていた方向を変え、二塁ベースの後ろに走らなければいけなかった。
「橋本が行ったと思っていました。橋本がいると思ったので(カバーに)行かなかった。確認できなかったことによるミスです。今までにこんなことはありませんでした」(戸塚)
「本当は自分がカバーに行かなきゃいけなかった。ファーストの方に行っていました。遅れて申し訳ない。1球のボールに対しての集中力が欠けていたと思います」(橋本)
 ひとつのプレーが終わり、次のプレーに備えるのは忘れやすく、対応が遅れがち。特に外野手は走る距離が長いため大変だが、失点を防ぐためには全力疾走が必要だ。
 このあと、花咲徳栄高は8回に1点差まで追い上げる反撃を見せた。結果的に、この1点がなければ同点に追いついていたことになる。裏の攻撃だったため、同点になっていればと惜しまれるところ。それだけに、もったいないプレーだった。

ミスをミスでなくすのがカバーリング

 失点にこそつながらなかったものの、第3試合の日大三高にもカバーリングのミスがあった。8回表、向陽高の先頭・東山拓真の当たりはサード前へのボテボテの当たり。サードの横尾俊健が懸命に送球するが、ボールは逸れ、一塁側のファウルグラウンドに転がった。この間に東山は二塁へ。無死二塁のピンチを招いてしまった。
 走者なしでサード、ショートなど左方向へのゴロの場合、悪送球に備えてセカンドがファーストの後ろに走るのが基本。このときも、セカンドがカバーに走っていれば打者走者の二塁進塁は防げた。日大三高のセカンドは昨夏甲子園出場時の籾山康平、1回戦でスタメンだった荻原辰朗ともにこのカバーを行っている。だが、この日甲子園初スタメンだった根岸昴平は初回からこのカバーを怠っていた。3対1と1点を争う終盤だっただけに、大きなプレー。後続のバントが併殺になり、失点につながらなかったのが不幸中の幸いだった。

 第1試合の北照高の守りでも気になることがあった。
 走者が三塁に行っても、捕手の投手への返球時にセカンド、ショートともに投手の後ろにバックアップに入らないのだ。もし、捕手からの返球が逸れれば1点。ボールに集中することが要求される場面だ。
「カバーは頭にありませんでした。行かなきゃいけないですね」(セカンド・木村悠司) さらに気になったのが、捕手・西田明央の返球姿勢。走者が三塁にいても、立ち上がらず、座ったまま投手に返球する。肩に自信がある西田だからできることだろうが、三塁にいる場面では、立ち上がって、丁寧かつ確実に返球したほうが安全だ。
 座ったまま返球することについて西田に訊くと、こんな答えだった。
「何でですかね……。こだわりではないです。ショート、セカンドがカバーに行ってくれてるので」
 実際は、ショートもセカンドもカバーに行っていない。それに気づいていなかった。

 毎大会ごとに書いていることだが、甲子園出場校でもカバーリングの意識が低いチームが多い。そのため、今大会ではセカンド、ショートの投手後ろへのカバー、一塁けん制でのセカンド、レフト、センターのカバー、センター前、レフト前へのヒットでの捕手の一塁後ろへのカバー(オーバーランを狙った送球に備えるため)、打者が振り逃げを狙うときのセカンド、ライトのカバーなど基本的な15項目のカバーリングをチェックし、点数化した。出場32校中、点数の上位3校は以下のとおりだ。

(1)東海大相模
(2)中京大中京
(3)大阪桐蔭、敦賀気比

 敗れはしたものの、東海大相模高のカバーリングはナンバーワンだった。昨秋の明治神宮大会決勝では1死一、二塁の内野ゴロで投手がファーストのファウルグラウンドへダッシュ。ショートが一塁悪送球したにもかかわらず失点を防ぐという最高のカバーリングを見せた。ちなみに、今大会でこのカバーリングをしたチームは皆無だ。
 逆にカバーリングの意識が全く見られず、採点がゼロだったのが嘉手納高、開星高、高岡商高の3校。上位4校中3校が初戦を突破し、下位3校が全て初戦敗退だったのは偶然ではないだろう。
 実力が拮抗(きっこう)し、接戦になればなるほど1球のミス、わずかなミスが命取りになる。ミスをミスでなくすのがカバーリング。ミスした選手を救う、最高のチームワークでもある。全力で走っても、ボールが来ないことが大半。それだけに骨が折れる。それでも、万が一のため、仲間のために全力で走るのがカバーリング。仲間のミスを救えば、自分がミスをしたときに必ずチームメイトが救ってくれる。
 最後まで集中を切らさず、全力でカバーリングを――。
 甲子園でプレーする選手たちはもちろん、全国の球児、そして指導者に徹底してもらいたい。
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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