女子は東龍が史上初の3連覇、男子は東洋が初優勝=春高バレー総括
古川学園を破って3連覇を達成し、声援に応える東九州龍谷の選手たち=国立代々木競技場 【共同】
コンビバレーの生命線を担った比金桃子
2セットを取り、3連覇に王手をかけた第4セットのマッチポイント。もはやお家芸とも言うべき高速コンビで、レフトからスパイクを決めたキャプテンの村田しおりは試合終了の笛が鳴り響くと、両手で顔を覆い、大粒の涙を流した。
「東龍は、勝って当然と思われている。レシーブも、スパイクも、変なプレーは1つもできないんだという気負いや重圧が常に消えなかった」
12月の天皇杯・皇后杯ベスト4という快挙を残し、長岡望悠、栄絵里香、芥川愛加ら3年生がチームを去った。新チームになってわずか3カ月で、女子チームとしては前人未到の3連覇に挑んだ今大会。昨年から試合に出場してきた村田、1年生の鍋谷友理枝の両エースはもちろんだが、セッターとしてコンビバレーの起点となる比金桃子も、両肩では支えきれないほど大きな重圧を背負った1人だった。
相原昇監督が、チームをつくり、はぐくむ上で、最も重点を置くのがセッター。
「エースを輝かせるのがお前の仕事。そのためのトス回しを考えろ」
比金は、そう言われ続けた。
メンバーは変わっても、ネットの白帯と平行に流れるようなトスを基軸とした東龍の高速コンビバレーは変わらない。169センチの村田、175センチの鍋谷と、高さに恵まれているとは言い難いエースを生かすためにどんなトスを提供すべきか。練習で相原監督に罵倒(ばとう)され、泣きながらトスを上げた日は数えきれない。3年生チームを相手にしたゲーム形式の練習でも、コンビ形成はおろか、ボロボロに敗れ、またしかられた。
しかも、比金はセンターへのトスが苦手だった。
コンビバレーの生命線はセンターからのクイックを通すこと。高さのない両サイドが2枚、3枚のブロックに付かれれば、いくら技術のあるエースとはいえそのブロックを回避するのは容易ではない。ましてや、2年連続決勝で敗れ「打倒・東龍」の思いをどこよりも強く抱く古川学園には180センチを超える選手がそろう。センター線が通らなければ、3連覇は黄信号どころか、赤信号が点灯しかねない。
仲間を信じて上げたトス
「私はモモ(比金)を信じてクイックに入る。だから、モモも私を信じてクイックを上げてきて」
苦手だからこそ、自主練習ではセンターとのコンビに多くの時間を費やしてきた。練習の成果を出したい。しかもそれは、古川との決勝で出せなければ意味がない。
会場へ応援に来てくれた今春卒業の3年生、栄からもらったアドバイスも比金を後押しした。
「レフトに上げれば決まるかもしれないけど、センターも同じようにトスを待っているんだよ」
2セットを先取しながら、自らのドリブルのミスなどで第3セットを取られ、第4セットも古川の勢いに押されていた4−4の場面。比金は甲斐のAクイックを選択した。相手は時間差を警戒しており、ノーマークだったクイックが鮮やかに決まる。
「不安はなかった。甲斐を信じて(トスを)上げました」
再び、流れは東龍へ。着々とリードを重ね、遂にマッチポイントを迎える。最後はキャプテンの村田へ迷わずトスを上げた。
「自分の弱さをみんなが、3年生が、卒業していった先輩たちが支えて、助けてくれた。だから最後はしおりを輝かせたかったんです」
勝利の瞬間、初めて、監督の涙を見た。
苦しみ抜いて3連覇を果たすことができた理由は。主将の村田が言った。
「優勝することを一途に思って、毎日努力してきた。これならば勝たせていいチームだと神様が見ていてくれて、奇跡が起きました」
小さな大エースの笑顔が輝いた。