甲子園初勝利へ 盛岡大付に必要なもの=タジケンのセンバツリポート2010

田尻賢誉

勝負では災いする“人の良さ”

中京大中京高に敗れ、肩を落とす盛岡大付高ナイン。しかし、甲子園初勝利は確実に近付いている 【写真は共同】

 昨年準優勝の花巻東高(岩手)の佐々木洋監督がこんなことを言っていた。
「岩手の人はマジメで謙虚でいい人が多いんですが、こと戦いになると優しい部分が出てしまうんです。私も大学時代に関西の言葉に相当傷ついた経験があるんですが、プレーを見ていても、岩手の選手は大阪のチームと対戦すると完全にのまれてしまう。戦いのレベルは一緒ぐらいなんですけどね」
 あたたかくて、人が良くて、友人としては最高の人柄。だが、勝負師としてはそれが災いする。優しくて穏やかな分、相手チームからキツイ関西弁でヤジられると、それだけで気後れしてしまう選手も多い。
 もちろんこれは、岩手に限らず、東北勢全般にあてはまる。東北高(宮城)、青森山田高(青森)、光星学院高(青森)、酒田南高(山形)など甲子園常連の東北勢に関西出身者が多いのは、選手としての能力だけでなく、出身地による性格によるところも大きい。関西出身者の持つ雰囲気に引っ張られ、地元出身者も「やってやる」という気になりやすいからだ。
 昨年の花巻東高は全員が岩手県出身者だったが、佐々木監督いわく「岩手県が生んだ関西人」横倉怜武のような気持ちの強い選手がいた。
「横倉は練習でもランニングの後半とか、みんな苦しいときに周りに声をかけたりするんです。苦しいときに乗り越える力をすごく持っている子。バッティング自体はたいしたことないんですけど、『ここでオレがやってやる』と思える子なので、勝負どころで打つのは絶対あいつだと思っていました」
 横倉は昨夏の甲子園の準々決勝・明豊高(大分)戦で2点リードされて迎えた9回に同点タイムリーを放った。追い込まれた土壇場の場面で結果を残せたのは、東北人には希少な気持ちの強さがあればこそだった。

東北人気質から出た惜しまれる三つの場面

 そして、盛岡大付高(岩手)。
 レギュラー9人中3人、ベンチ入り18人中9人が東京・神奈川出身だが、中京大中京高(愛知)戦では、東北人気質が災いしたかのような惜しまれる場面があった。
 一つ目は、6回。2死満塁で打席には途中出場の甲斐祐源。3対4と1点差。一打出れば逆転という場面だったが、甲斐は4球目までバントの構えで見送り、2ストライク2ボールと追い込まれる。そのあと2球ファウルで粘ったものの、結局レフトフライに倒れた。
「2ストライクまでは待てのサインでした。打席に入る前に『追い込まれても焦ることなく振っていけ』と言われていたんですが、気持ちで負けた。打たされてしまいました」
 甲斐はこう話したが、実は「待て」のサインは1ストライクまで。2四球が絡んでの満塁だったため、1球ストライクが入るまでは様子を見ようという狙いだったが、1ストライク以降は「打て」のサインに変わっていた。
 甲斐は東京出身だが、「性格的に消極的な子」(関口清治監督)。昨秋の東北大会はベンチに入っておらず、公式戦出場は2試合で打席ゼロ。経験不足も積極性を欠く一因になっていた。この場面を中京大中京高の捕手・磯村嘉孝はこうふりかえる。
「キャッチャーとしたらラッキーですよね。バントの構えということは打ってこないということですから。ストレートで簡単にストライクが取れる。向こうのチームカラーだと思いますけど、打たれる方が怖い。振られる方が嫌ですよ」

 二つ目は、1点差のまま迎えた7回。2死一、二塁から打席には5番の佐藤翔太。佐藤は初球からスイングしたものの(ファウル)、その後、2球続けて変化球がワンバウンドになったあとの4球目のストレートを見送り(ストライク)、5球目のストレートにも手が出ず見逃し三振に終わった。変化球を投げにくいのが明らかな1ストライク2ボールからのストレートを思い切って狙ってほしい場面だった。
「(4球目は)次に来るボール(球種)は分かったんですけど、打ち急いでしまった。タイミングが少し早くて、あのままいったら打てないと思って振りませんでした」
 ちなみに、佐藤は仙台出身。チャンスで積極的になりきれない、打たなければいけないという気持ちから固くなってしまう部分があったのかもしれない。
「1ストライク2ボールから見逃したのは悔いが残ります。中京大中京の打線は振り切っているので、それが(外野の)前に落ちていた。そこが自分たちと違うところだと思います」(佐藤)

 三つ目は、2点差で迎えた9回。無死一、二塁で打者は4番の槻舘洋弥。ここで関口監督が選んだのは送りバントだった。
「あそこはかなり迷いました。(槻舘の場面で一度降板したエース・森本隼平が再登板)森本君が息を吹き返すかなという思いと、ゲッツーが嫌だという思いとで送りバントにしました」(関口監督)
 二、三塁で一打同点の場面をつくる。当たり前、定石の作戦だ。だが、ここは併殺覚悟で勝負してほしかった。なぜなら、それは打者が槻舘だったから。昨秋は8番を打っていた槻舘だが、勝負強さは出色だった。昨秋の東北大会準々決勝の専大北上高(岩手)戦では、1点ビハインドの9回2死一、三塁から左中間へ逆転のタイムリー二塁打。前の打者がスクイズを失敗し、一気にムードがしぼんだ直後の初球を見事にたたいた。準決勝の弘前学院聖愛高(青森)戦でも同点で迎えた8回2死一、三塁でレフト前に決勝のタイムリーを放っている。
 期待されながら結果が出ず、「もう練習に来なくていい」と容赦なく厳しい言葉を浴びせたり、ランニングではほかの選手の倍の量を課したり、試合ではわざとスタメンを外したりと関口監督が一番いじめてきた選手。それが、ようやく成長を見せ、甲子園で4番を任せられるまでになった。そして、この試合では期待に応えて3打数3安打1四球と全打席出塁。4回には二塁走者としてショートややベース寄りのゴロで好スタートを切り、三塁を奪う積極的な走塁も見せている。それだけに、結果はどうであれ槻舘のバットに託すところを見たかった。ちなみに、関口監督も岩手出身だ。

確実に近付く甲子園初勝利

 とはいえ、一昨年秋から関口監督になり、盛岡大付高は確実に変わった。ゴロ捕球の姿勢や最後までボールを見る意識など細かい部分にもこだわり、徹底させるようになった。下級生時からレギュラーの選手でも特別扱いせず、逆に厳しく指導するようになった。昨年春の東北大会優勝も、昨年のエース・伊東昴大がプロ入りするまでに成長したのも、関口監督の存在があればこそだ。
 そして何よりも最も変わったのは、リードされてもあきらめず、粘り強くなったこと。中京大中京高の大藤敏行監督も「花巻東高のような粘りがあった」と称えたが、以前までの盛岡大付高なら四球と暴投が絡んだ初回の2失点で崩れていたはず。そこから昨夏の優勝校に食らいつけたのは大きな成長の証だ。
 今大会で甲子園での連敗は春夏通算で「8」となったが、確実に白星へと近付いているのは間違いない。あと必要なのは、積極的な気持ち。三振でもいい。併殺でもいい。前向きに、攻める気持ちさえあれば。試合では多少のふてぶてしさも必要。人の良さを返上し、勝負に徹してほしい。
 それが身についてきたとき――。
 その先には、甲子園初勝利を飛び越え、もっと上が狙えるチームになるはずだ。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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