試合のカギを握る「3」の重要性=タジケンのセンバツリポート2010

田尻賢誉

野球と縁が深い「3」という数字

「3」
 野球はこの数字と縁が深い。
 スリーアウト。
 スリーストライク(三振)。
 本塁と一塁の間にはスリーフィートラインというものもある。ちなみに、試合に出られる9人という数字も「3」の倍数だ。
 それだけに、試合の中でカギを握るのも「3」。特に、無死から二者が凡退した後の「3」番目の打者が重要になる。

 当然のことながら、三者凡退で攻撃を終えれば、守っていた相手側にリズムが生まれる。相手側はリズムや気分、雰囲気が良くなり、それが流れを呼び、攻撃につながることも多い。さらに、その傾向は攻撃を簡単に終えれば終えるほど強くなる。簡単に終えるとは、三振、またはフライアウトのこと。三振なら投手と捕手だけ、フライアウトなら投手とフライを捕球した野手だけというように、そのプレーに関して、守備側が2人しか関係しないアウトだと、慌てることなく楽にプレーができる。そのため、守備側によりリズムが生まれやすい。
 逆に言えば、守備側は同じ三者凡退でも「3」番目の打者を三振かフライアウトで打ち取れば、よりリズム良く攻撃に移ることができるということ。まずは3人で終わらせるのが第一条件だが、3人目が三振かフライアウトだと、より波に乗りやすいといえる。

広陵vs.立命館宇治の試合を大いに動かした「3番目」

 広陵高vs.立命館宇治高も「3」番目が大いに試合を動かした。
 初回に幸先よく1点を先制した広陵高はその裏、簡単に2死を取る。そして、3人目もサードゴロ。三者凡退でさらにリズム良く試合を運べると思った矢先、サードの三田達也がゴロをはじいた(記録は失策)。これで、広陵高のエース・有原航平はリズムを狂わす。4番・古川昴樹以下に3連打を浴びると、死球を挟んでなおも8番の清水祐太にレフト線を破られ一挙4失点。三者凡退のはずが一転、3点のビハインドを背負ってしまった。
「普段から簡単なゴロをはじいたり、フライを最後まで見ずに落としたり、指導者の方々に集中力がないと言われているんですが、それが出てしまいました。どこかに油断があって、雑にいってしまった。自分が流れを変えてしまいました」(三田)
 この試合で有原は9イニングのうち6度、二者連続凡打に打ち取っている。だが、三者凡退で終われたのは半分の3度だけ。13奪三振で自責点は2と数字こそ勝利投手にふさわしいものだったが、7回にはレフト前ヒット、8回には四球で「3」番目の打者を出し、リズムを呼び込めなかった。
「2死を取って、簡単に抑えられると思ってしまったところがありました」(捕手・新谷淳)
 対象的に、しっかりと三者凡退に抑えた2、4回裏の直後の攻撃は3、5回表ともに先頭打者が出塁していずれも3点を奪っている。守備でつくったリズムが、そのまま攻撃につながっていた。

 反対に、この試合で広陵高打線が三者凡退で終わったのが3度。そのうち2度がフライアウト、1度がセカンドゴロだったが、気になったのは9回。先頭から2人が簡単に外野フライを打ち上げて4球で2死になったが、ここで「3」番目の三田も2ボールからあっさりとセカンドフライで攻撃を終了した。
 三者凡退というだけでも嫌だが、3人が全てフライアウト。それに加えて、勝ちを意識する最終回であること、5対7と2点差であること、有原が8回までに156球を投じていること、9回裏の打順が1番から始まること、相手が地元京都で満員のアルプススタンドがサヨナラを後押しすることなど不安要素が多くあった。
 案の定、9回裏はそれまで4三振の1番・土肥純平を歩かすなど3四球に暴投も重なり1失点。なんとか逃げ切ったものの、9回表の淡白な攻めが冷や汗をかく要因になった。

 ちなみに、7回表2死から打席に立った御子柴大輝は詰まったセカンドゴロ。アウトにはなったものの全力疾走し、最後はヘッドスライディングを見せた。
「相手に流れの行かないアウトにしたかった。打球は悪かったですけど、普通に終わったらダメだと思ったのでヘッドスライディングしました」(御子柴)
 9回裏同様、7回裏も1番の土肥からの打順だったが、有原は走者1人出しただけで無難に抑えた。最終回との重圧の違いはあるとはいえ、「3」番目の打者の姿勢、アウトになり方が次の守りに与える影響は少なくないといえる。

次の回の攻撃、守備につながる「3」

 この試合に限らず、やはり「3」番目が試合を左右しているのが目につく。
<天理高vs.敦賀気比高>
6回表・天理高三者凡退(「3」番目レフトフライ)→6回裏・敦賀気比高5得点
<花咲徳栄高vs.嘉手納高>
7回表・嘉手納高三者凡退(「3」番目三振)→7回裏・花咲徳栄高2得点
<開星高vs.向陽高>
4回表・開星高三者凡退(「3」番目三振)→4回裏・向陽高2得点
<前橋工高vs.宮崎工高>
2回裏・前橋工高三者凡退(「3」番目三振)→3回表・宮崎工高1得点
 また、ここまでの6試合で2死無走者から走者を許したケースは13度。そのうち3度が内野ゴロエラーによる出塁だ。3人で終わろうと思う分、守る野手が堅くなるか油断があるかのどちらかだろう。ちなみに、フライの失策はひとつもない。
 さらに、13度のうち、2度は失点に結びつき、7度は得点圏まで走者を進められるピンチになっている。チェンジのはずが……という心境が攻撃側にはプラスに働き、守備側にはマイナスに働くことを表している。

<天理高vs.敦賀気比>
8回裏・敦賀気比高2死走者なしから安打、盗塁、安打で1得点
<前橋工高vs.宮崎工高>
9回表・宮崎工高2死走者なしから安打、三塁打、二塁打で2得点

 だからこそ、「3」番目を強調したい。
 守備側は、油断せず、慎重になりすぎず確実にアウトを取る。
 攻撃側は、何とかして塁に出る。アウトになるなら三振とフライアウトを避け、ゴロを打つ。ゴロでも全力で一塁に走り、少しでもセーフになりたい姿勢を示す。
 これだけで、次の回の攻撃、守備へつなげることができるのだ。
 たかが「3」番目というなかれ。
 3つ目がどれだけ大事か――。
「3」の重要性を頭に入れて、プレーしてもらいたい。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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