若きエース狩野がアルペン競技初の金メダルを獲得

宮崎恵理

アルペンスキースーパー大回転男子座位で金メダルを獲得した狩野亮(左)と銅メダルの森井大輝 【ディナモスポーツ/望月公雄】

 バンクーバー冬季パラリンピック第8日の19日(日本時間20日)、アルペンスキー男子スーパー大回転座位で、狩野亮(マルハン)が金メダル、森井大輝(富士通)が銅メダルを獲得した。
 狩野が、スーパー大回転でついにアルペン競技初の金メダルを獲得。前日の滑降で銅メダルを獲得した狩野は、初めて出場したトリノ大会以降急成長を遂げてきた日本アルペンスキー界の若きエースだ。

 滑降で銀メダルを獲得した森井が、狩野の前に出走しラップをたたき出した。しかし、その後回転、大回転で金メダルを獲得したドイツのマーティン・ブラクセンターラーが森井を上回る。そうして狩野が出走すると、第1チェックポイントではブラクセンターラーに0秒72遅れをとったものの、第2チェックポイントでは0秒39上回り、最終的に0秒65の差をつけて1位に滑り込んだのだった。
「スタート前のインスペクションの時に、氷のように硬いバーンだったことでナーバスになっていました。でも、いざスタートしたら気持ちよく自分の滑りができるということがわかったので、伴(一彦)コーチや大輝さんが指示してくれた通りのラインを描いて滑ることができた。ところどころ危ないところもあったけど、楽しんで滑れた結果が金メダルでした」

父、操さんの影響で始めたチェアスキー

スーパー大回転男子座位で狩野亮が日本勢で今大会2個目となる金メダルを獲得。森井大輝も3位に入った。滑降男子座位で狩野は銅、森井は銀メダルを獲得しており、2日続けての表彰台となった 【ディナモスポーツ/望月公雄】

 北海道網走出身の狩野が交通事故に遭ったのは、小学校3年の時。横断歩道に飛び出したところに車が突っ込んで、脊髄(せきずい)を損傷した。スキー指導員を務める父、操さんの影響で幼い時からスキーに親しんできた狩野は、父とともにチェアスキーを始めた。

「自宅から片道1時間のところにある北見若松(市民)スキー場で、まずはバランスのとり方から、今日はこんなことをしてみよう、今日はこれをやったから明日はこれをしてみようって試行錯誤してきました。亮はよく食べる子だったからすごく太ってたんですよ。筋力はないのに、体重だけは重い。だから、一度転倒すると自分一人で起き上がれない。それを悔しい、悔しいって、一生懸命頑張るんです。

狩野は0秒65の差をつけて1位に踊りでた 【ディナモスポーツ/望月公雄】

私も絶対に手を貸しませんでした。また、好きなことにはとことんこだわる子で、魚釣りを教えてもどうやったら釣れるか、どうして釣れなかったかということをいろんな角度から考える。だから、トリノ以降、私がもうチェアスキーについて教えることがなくなっても、あの子は自分の滑りを分析してきたのだと思います。
 伴コーチが、まだまだ力量としては世界のレベルには不足していたはずの亮がトリノの代表メンバーになった時に、『亮はとにかくしつこくいろんなことを聞いてくる、くらいついてクラッシュしても何度でもトライしてくる。だからいつかこいつは伸びると思った』とおっしゃってくれてました。そうやって亮は一つひとつの階段を昇って、今日の金メダルにたどり着いたのだと思います」

 そう語る操さんは、負けず嫌いで研究熱心だった我が子の成長をずっと見守り続けてきたのだった。

高め合った最強チーム

滑降で銀メダルを獲得した森井は3位に入り、銅メダルを獲得 【ディナモスポーツ/望月公雄】

 初出場したトリノ大会では、回転で27位。わずか4年で狩野は世界のトップに立った。
「トリノの時、(森井)大輝さんが大回転で銀メダルを獲った姿を見て、頭をガツンと殴られた気がしました。今のままの自分じゃ絶対にダメだって」
 改めて世界の頂点を見上げた狩野は、森井を師と仰ぎトレーニングを積んできた。
「本当に何もかも大輝さんに教えてもらいました。スキーの技術にしても、チェアスキーの調整にしても、筋力トレーニングにしても。いつも僕のそばで全部を教えてくれたんです。今日の僕があるのは、大輝さんのおかげです」

4年後のソチパラリンピックを目指し新たな戦いが始まる 【ディナモスポーツ/望月公雄】

 森井は、前日の滑降では狩野とともに銀メダルを、スーパー大回転では銅メダルを獲得。その森井が語る。
「本来、滑降では亮のほうが速い。今大会の滑降ではたまたま僕の方が速かったけど、僕は亮の滑降のビデオを見てこういうふうに滑ればいいのかって、亮に教えてもらってきたんです。そうやってチーム内で高め合って最強のチームを作ってきたし、それが2日連続して一緒に表彰台に昇れたことで実証されたと思っています」
 狩野の探求心とチームの結束力が、アルペン競技初の金メダルを生み出した。
「でも、バーン状況への対応やコースのライン取りも、まだまだ世界のトップとして通用しない部分が多い。4年後のソチ(パラリンピック)では真の世界一になれるように、これからもっともっと頑張りたいと思います」
 金メダルは、新たなスタート。狩野の挑戦は、まだまだ続く。
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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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