沖縄勢2年ぶりの優勝に挑む興南高・島袋=第82回センバツ高校野球・直前リポート

田尻賢誉

左腕が見えづらいフォームが最大の特徴

 左腕が、見えない。
 ボールを持った手はトルネード投法によってひねられた体に隠され、リリース直前になって、突然、現れる。
 さらに、その左腕は地面と垂直に近い位置から振り下ろされる。
 身長は172センチだが、我喜屋優監督曰く、「180センチぐらいの角度がある」。高校入学から1センチしか伸びなかった身長はまるで気にならない。むしろ、長身の投手以上に高い位置から投げることができる。
 腕を隠し、角度をつける。
 これが興南高・島袋洋奨(3年)の最大の特長だ。
「(対戦した)バッターには、見えづらいとよく言われますね」

 この打ちにくさ、タイミングの取りづらさに加え、島袋には制球力もある。秋の公式戦は50回3分の1を投げてわずか7四死球。1試合平均1.25個だ。ブルペンでは捕手のミットがほとんど動くことはない。外れたとしても外側。内側に甘く入ることもまれで、逆球はほとんどない。ストレートだけでなく、カーブ、スライダーでも簡単にストライクが取れる。
「右バッターのひざ元への変化球はキャッチャーにもよく言われることなので意識しています。そこのコントロールは自信があります」
 もともと制球力には定評があったが、冬場に10メートルダッシュ100本やスクワット、ウエートトレーニング、さらにはグラウンドのレフト側にある40段の階段を右足一本で一段抜かしで跳び上がるトレーニングで下半身が安定。体重は入学時より7キロアップの69キロになった。その結果、投げ終わった後に右足がぐらつくことが少なくなり、これまで以上にしっかりと体重を乗せた球が投げられるようになった。
「(右足で)支える力が去年と比べて全然違いますね。それと、トレーニングもピッチングも同じ動きをくり返す動作。くり返す動作としては似ているので、いいトレーニングです」

 これだけではない。島袋は左腕の死角になりがちなバント処理にも長けている。常にセーフティーに備え、投手前の送りバントでは必ずといっていいほど二塁を刺しにいく。
「高校野球は(走者一塁で)90パーセントバント。練習をしないほうがおかしいですよね。それを忘れると自分で崩れることになるんです」(我喜屋監督)
 さらに、けん制も巧みだ。昨秋はややスキが出て、九州大会準々決勝の長崎商高戦で5盗塁を許したため、あらためて基本をチェック。同じ失敗はくり返さないよう準備を整えている。
「1年の夏は一塁けん制で首を使えていたのに、ビデオで見たら秋は首を使う回数が少なくなっていた。最近はずっと首を意識して、いろんな選手に試しています」
 2008年夏に浦添商高のエース・伊波翔悟が関東一高戦で見せたセットでの間の取り方も参考にして真似ている。

課題は1大会通してのスタミナ

大会を通して投げ切るスタミナが課題という島袋 【田尻賢誉】

 昨夏の甲子園は明豊高相手に5回まで2安打8奪三振で無失点と好投しながら、6回以降に打ち込まれ3点差を逆転されるサヨナラ負け。3対2とリードして迎えた8回2死二塁、同点の9回2死一塁(3球目に盗塁され2死二塁に)の場面で投じた9球はすべてストレートだった。「スライダーよりストレートを打たれたほうがいい」という判断だったが、逆にストレートに頼ったところを狙われた。
「(サヨナラ打の場面は)初球の入り方もあります。それに、盗塁されてすぐ打たれたので焦っている部分があって、すぐ投げてしまった。終盤は相手もストレートが見えてくるし、自分も疲れてくる。九州大会からは終盤にかけて攻め方を変えることも意識してやっています。センバツでは、ボール球から入ることを意識して、最後打ち取りにいくときも、ストレートからボールになる変化球で打ち取りたいという気持ちはあります」

 唯一の不安はスタミナ面。昨年は夏だけでなく、センバツでも富山商高から19三振を奪いながら延長10回に力尽きた。だが、これは島袋も意識していること。冬場のトレーニングで不安は消えている。むしろ、不安なのは1試合のスタミナではなく、1大会を通してのスタミナだ。優勝するためには5試合。興南高には同じく左腕で最速137キロを誇る砂川大樹(3年)が控えるが、「砂川が投げるとエラーが出る」(我喜屋監督)と野手とのリズムやテンポに不安を残すため、島袋に頼らざるをえない。
 実は、島袋は年明けから不調。右足を巻き込みすぎてトルネードの動作が大きくなるなどフォームを崩し、投げ込みは不十分だ。ようやく調子は上向きになってきたが、島袋本人も「今の状態ではまだ5試合投げ切る体力ではない」と不安を口にしている。それだけに、センバツまでに投げ込みの数を増やし、肩のスタミナをつけたいところだ。

 逆にいえば、球数を減らし、疲労感を少なくして投げられさえすれば、打ち崩すのは困難。3度目の甲子園となる145キロ左腕は、今大会最も攻略難易度の高い投手といえる。
「右バッターのインコースをしっかり突けるようなピッチングを目指したい。センバツでは、右バッターへのインコースのボールを見てほしいですね」
 あとは調整と打線の援護だけ。沖縄勢2年ぶりの優勝は、島袋の左腕にかかっている。

※学年は新学年

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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