秋山監督の狙いは的中した=ソフトバンク春季キャンプ総括

田尻耕太郎

ライバル意識で戦力を底上げ

 一見すれば地味。しかし、見れば見るほど味わい深い。それが福岡ソフトバンクの春季キャンプだった。
 プロ野球でこの時期の一番の楽しみは新戦力を分析することだ。それはチームの監督もマスコミもファンも共通だろう。だが、今季の福岡ソフトバンクにはそれがほとんどない。目立った補強はWBC韓国代表だった李ボム浩のみ。その彼にしてもレギュラー確定ではなく、戦力的には昨季とほぼ変わらないのが現状だ。
 しかし、周囲の思いとは別に就任2年目を迎えた秋山幸二監督は手応えを感じていた。「昨年以上に選手たちの意識の高さを感じた」と表情を和らげる。競争の中で互いを高め合い、現有戦力の底上げをする。その狙いは的中した。

 キャンプ地・生目の杜(宮崎県)は活気にあふれていた。「負けない」。それが選手のパワーとなり、声となる。特に目立ったのは5年目の松田宣浩だ。入団から三塁手のレギュラーとして活躍してきたが、今季は同じ三塁手の李ボム浩の加入で状況が一変した。
「秋のキャンプの時に入団発表があり、今年は厳しいシーズンになると分かっていた。自分でも負けたらいけないという気持ちが高まったし、ライバルと思って自主トレから必死に練習に取り組んできました」
 キャンプ初日から松田の迫力は違っていた。今すぐシーズンが始まっても大丈夫と言わんばかりに打球ははるかかなたへ消えていく。守備でも足がよく動き、自慢の肩もさく裂する。そして「自分の存在をグラウンドでアピールしないといけませんから」と声でも猛烈にアピールした。2月14日の紅白戦初戦ではさっそく“今季1号”を放っており、今季は大砲としての覚醒(かくせい)に大きな期待がかかる。

苦しむ李ボム浩を救った男

 一方の李ボム浩は松田とは対照的なキャンプの入り方になってしまった。第1クールは調整不足が明らかでマスコミからバッシングにあった。
「韓国のキャンプは練習の間に休みを入れて疲れを取りながら取り組む形ですが、日本のキャンプは次々と練習メニューが変わっていく」
 慣れない日本野球や言葉の違いなどで心身ともに疲れてしまい、一時は笑顔が消えてしまった。しかし、救世主がいた。同い年の川崎宗則だった。川崎は積極的に李ボム浩のサポートをした。ランチに行くときもランニング場に向かうときもいつも一緒。そして、韓国語は話せないはずだが、いつも何やら楽しげに話しかけていた。
「去年から韓流ドラマにハマったからね。いろいろ話しかけてるよ。あっちは迷惑がっているかもしれないけどね(笑)」(川崎)

 それが李ボム浩にとっては何ともありがたかった。徐々に周囲ともコミュニケーションが図れるようになって笑顔も戻ってきた。キャンプ終盤には特打で鋭い打球を飛ばすようになり、本来の実力も発揮しはじめた。26日から始まるオープン戦次第では“逆転”することも十分に可能だ。
 秋山監督はこの三塁手の激しいレギュラー争いがチーム全体に波及効果をもたらしたと考えている。それをさらにかき立てるべく、たとえば二塁手の本多雄一を伸び盛りの明石健志と競わせたり、先発ローテーション争いでは中堅の藤岡好明と高橋秀聡、神内靖をひとつのグループにして、もうひとつは若手の大場翔太、巽真悟、岩崎翔でそれぞれ火花を散らさせたりした。その中で巽は18日の起亜タイガース戦と23日のヤクルト戦(B組)に登板して計7回無安打無失点と猛アピールした。1人の好投がライバルたちを刺激し、また相乗効果が生まれる。開幕まで、そしてシーズン中も“先発枠”をめぐる激しい争いは続きそうだ。

小久保は原点回帰。エース杉内は“別次元”へ

 また、チームの軸となる男たちも順調なキャンプを過ごした。主砲の小久保裕紀は「今までにないくらい充実したキャンプ」と振り返る。昨季は144試合にフル出場しながら18本塁打とさみしい数字に終わった。「原点に返る」と飛距離アップにこだわり抜き、かつて行っていたロングティーを頻繁に行って感触を確かめた。「手応えはある」。今季は自身の集大成として、ホームランアーチストとしての道を歩むつもりだ。

 エースの杉内俊哉には貫禄が備わってきた。14日の紅白戦は2回無安打無失点、20日の紅白戦は3回1安打5奪三振で無失点と“抑えて当たり前”と感じ取れる投球。「今季は21勝したい。30歳までに通算100勝するのが目標だったから」と大きなテーマを掲げるが、いよいよ“別次元”に突入した左腕にとって決して無理な数字ではない。

 今季の球団スローガンは「今年はやらんといかんばい!」。直球表現で7年ぶりの優勝をつかみ取りにいく。選手会長の川崎はキャンプの手締めを前にナインを鼓舞した。
「10月には『やったばい!』と言えるシーズンにしましょう」
 2年目を迎えた秋山ソフトバンク。覇権奪回の手応えは、昨季よりはるかに強い。

※ボムは木へんに「凡」

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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