クロカン恩田の“4年”に懸ける思い

高野祐太

これでもかという厳しさ

 ノルディックスキー距離(クロスカントリー)の男女団体スプリントが22日(現地時間)に行われ、夏見円(JR北海道)と福田修子(岐阜日野自動車)のトリノ8位コンビで臨んだ女子は、準決勝1組7位で決勝に進めず、全体の13位。恩田祐一(栄光ゼミナール)と成瀬野生(岐阜日野自動車)で組んだ男子も、準決勝2組7位で終戦し、全体13位に終わった。

 得意種目の個人スプリント・クラシカルで、準々決勝敗退の17位だったことに続き、この日は決勝進出まであと一歩で届かず、恩田のバンクーバーはわずか3レースで終わりを告げた。

「これが、僕の、そして日本チームの今の力。(決勝進出まで際どかったが)最後に僕が一人に抜かれているし、タイム差以上に力の差があった。男子は下りのターンなど、ちょっとしたところで差が出る。僕に体力の余裕がなく、反応できなかった。オリンピックは結果がすべてです」

 男子クロカンの、特に恩田が戦いの場とするスプリント種目がいかに厳しいかを、これでもかというほどに突き付けられた舞台になってしまった。

 「本当に悔しい。個人スプリントでは頭がおかしくなるほどだった。スプリント種目は世界が毎年進化しているし、いろんな国が強化している。僕が思っていた以上に世界が前に行っていたのかなと思います」

ノルウェーチームと合宿

 個人スプリント26位、チームスプリント12位だったトリノ五輪からスタートした4年間。恩田は男子のエースとして、このマイナー競技でどうにか突破口を開こうと、出来る限りのことを尽くしてきた。悔しさをエネルギー源として。

 トリノの翌シーズンが本番を迎えようとするころ、スキーの女神が恩田に一つのプレゼントをくれる。「僕は世界一だと思っている」と言うノルウェーナショナルチームの合宿に、わずか1週間だったが参加することができたのだ。恩田がヨーロッパで合宿を張っていたときに、たまたま同じ場所に彼らがいたのでコーチに頼んでみると、快くOKしてくれた。

「ずっと参加してみたいと思っていました。練習メニュー自体はそんなに変わらないのですが、筋トレ一つ取っても負荷のかけ方とか、スピード練習も僕にはない速さとかを持っていた。そこを強化しなければ追いつけないだろうなと。何よりチームで強くなろうという意識が強かった。そこが差かなと感じ、目の覚める思いがしました」

 さらに一昨年には、自ら競技環境を開拓する。
 それまでは、甘えも許されたが、実質的なプロとしての状況に立ち、背水の陣を敷こうとした。

「給料をもらうのですが、契約は1年ごと。クロカンという活動環境の恵まれない競技において、次世代のために新しい道を作りたい思いもありました。滋賀県から東京都に移ることでJISS(国立スポーツ科学センター)でのフィジカルトレーニングや長野県志賀高原でのスキー練習をしやすくすることができました」

「自己満足だったのかも」

 これで、落ち着いて競技に集中できるようになり、この2年間は求めた通りの充実した日々を過ごすことができた。また、プライベートではサッカーの稲本潤一や中田浩二などと交流し、刺激を受けた。たまの休日の気分転換になっただけでなく、異種競技のアスリートの考えていることを学ぶことができた。

 それでも、2010年2月のバンクーバーで世界との差を詰めることはできなかった。たたきのめされるほどの衝撃を受けただろうことは想像するに余りある。だが、そんな恩田は競技者としての闘争心を失っていない。

「僕がやってきたことは、結局、自己満足だったのかもしれない。これまでの4年間やってきたこと、そして日本チームが取り組んできたことを見直して、さらに厳しいトレーニングをしなければならない。次の4年間で簡単に埋まるような差ではないけれども、僕が先頭に立つことで、何かが伝われば。クロカンは継続してトレーニングすることが必要な競技。この2年でやってきたレベルのことは最低限こなし、さらにプラスして、もっとハードなことをやっていかなければ。圧倒的に負けているパワーを補うことが必要です」

 求道者のような29歳の意欲が、まるで枯れていないことが、何よりの光明。この4年間を無にしないための新たなスタートが切って落とされた。
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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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