小平、100分の8秒に泣く=スピードスケート女子1000メートル

高野祐太

500から見違える滑り

 スピードスケート女子1000メートルは、小平奈緒(相沢病院)と吉井小百合(日本電産サンキョー)の両エースに、ベテラン岡崎朋美(富士急)と15歳高木美帆(北海道・札内中)を加えたバラエティーに富む布陣で臨んだが、メダル獲得はならなかった。
 小平が1分16秒80と100分の8秒差で銅メダルを逃す惜しいレースで5位。それでも、500メートル12位のリベンジを立派に果たした。逆に、吉井は最大のターゲット種目で1分17秒81の15位に沈み、号泣した。岡崎は1分19秒41の34位、五輪初舞台となった高木は1分19秒53の35位で最下位に終わった。金メダルは、前評判通りクリスティン・ネスビット(カナダ)が1分16秒56のタイムで獲得した。

 昨年11月のワールドカップ(W杯)ベルリン大会で2位に入るなど成長を遂げ、メダル獲得を目指していた小平。手に届く位置でモノにできなかったことは悔やまれる。
 レース後に信州大時代から指導を受ける結城匡啓監督に「よく頑張ったぞ」とねぎらいの声を掛けられたが、「悔しくて、あまり聞こえなかった」。だが、時間を置いて報道陣と対するころには「あと100分の8秒だったのが悔しいです。でも、最後はひざがガクガクになるくらいの状況だったので、今の力は出し切れました」と満足感も口にした。

 2日前の500メートルから気持ちを切り換え、見違えるようないい滑りを見せた。200メートルのラップは18秒17で、ネスビットよりも0秒19速い。だが、「もう少し入りを遅くしてもよかったかな。そうすれば、最後のラップ(600メートルからゴールまでの400メートル)が29秒台とか30秒台頭で帰って来れたと思うので(実際には30秒45)、そこらへんで気持ちが先走ってしまいました」と、冷静にレース展開を振り返った。

 500メートルの後、コンディショニングを入念に行い、完全に自分らしさを取り戻した。

「悔しさと満足感は半々」

 「500メートルを終えた夜は悔しくて寝付けませんでしたが、翌日からはベルリン(11月のW杯)の良かった滑りの映像を何度も見直して、レース前も5、6回見て、しっかりイメージして本番を迎えました。前日は氷上練習をやめて、陸上トレーニングで1000メートルのイメージを作りました。全然不安はなかったです。ほかの選手のタイムは気にせず、自分のイメージした通りのスケーティングで滑ろうと思っていました」

 500メートルで強かった気負いを取り除くことにも成功した。レース前に結城監督と、好きなスケートを世界中の人々に見てもらえることが幸せなのだ、と臨んだ今回の気持ちを再確認した。

「こんなに多くの人の前で滑れるんだから、それだけで十分なんだぞ。お父さんとお母さんも『奈緒らしく滑ればいいから』と言っている。思い切りやりなさい」

 そうして、落ち着きを取り戻し、いい結果に結び付けた。
 オーバーペース気味に入ってしまったことは、結果的には100分の8秒差につながった面もあったかもしれない。だが一方で、自分らしさを取り戻して、思う存分滑れたことの表れでもあった。

 「500メートルの後、開き直ったら、スピードも氷も靴も刃も、全部仲良しになれたので、きょうはすごく楽しかったです」

 身体感覚を大事にする小平が、この日も、こんなふうに内容の良さを表現した。その根底には、結城監督と二人三脚で作り上げている技術がある。年ごとに課題をクリアし、今、だいぶいいところまで構築されてきているという。レース展開で多少の狂いがあったにしても、現時点で身に付けた部分が、この日表現できたのだろう、そんな言葉だ。

 加えて、「悔しさと自分の滑りができた満足感は半々。表彰台の3人を素直にたたえて、その姿を忘れることなく、4年間積み重ねたい」。来季、そしてその先の4年後には、さらに上の課題が待っている。どんな進化を遂げてくれるのか、楽しみになる。
 バンクーバーもまだまだ前半が終了しただけだ。力を発揮できるチャンスは、あと2回もある。「1500メートルの練習をしてきたので、自信を持って、また自分のやりたいようなスケーティングを滑りたいなと思います。それと、チームパシュートはしっかり役割を果たしたいです」。
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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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