開星高が誇る“安打製造機”糸原の変貌=第82回センバツ高校野球・直前リポート

松倉雄太

体形の変化がパワーアップへ

昨秋の中国大会で4本塁打と長打力を見せた開星高・糸原。「苦手なコースはない」と言い切る 【松倉雄太】

 開星高(島根)が誇る安打製造機が、一回りも二回りもパワーアップして甲子園に帰ってくる。糸原健斗(3年)――。
 一昨年秋の中国大会、左打席からシュアな打撃で初戦から9打席連続安打を放って名をはせた。続く2年春のセンバツでも2試合で7打数4安打と打ちまくった。当時の糸原をご記憶の方は、低く鋭いライナーで野手の間を抜き、俊足を生かして長打にする。こんな印象を抱かれているのではないだろうか。その糸原が1年たち、一発も打てる打者へと変貌を遂げた。
 1年秋と2年秋の成績の比較をしてみる。
・1年秋:8試合・35打数15安打・0本塁打・7打点・打率4割2分9厘
・2年秋:10試合・40打数18安打・5本塁打・13打点・打率4割5分
 この数字からもヒットを量産できる打者からホームランも打てる打者への変化がうかがえる。また、1年秋から身長は2センチ伸び、体重は7キロも増えた。体形の変化がパワーアップにつながったようだ。
 加えて特筆すべきは三振の少なさ。1年秋が0、2年秋も1だった。2年連続でこれだけの三振の少なさで出場する選手は非常に珍しい。この糸原について、野々村直通監督は「これまで30年以上高校野球の指導をして5本の指に入る選手」と試合で報道陣に聞かれる度に話している。

プロのスカウトも注目する積極性

 昨秋の公式戦で放った5本塁打のうち、4本は中国大会でのものだった。この時の活躍からプロのスカウトが見つめる視線も変わってきている。「センスは抜群。何より積極性がいいですね。高橋由伸(現巨人)みたいな感じ」とはあるスカウトの言葉。そんな言葉を象徴する場面は中国大会であった。準々決勝の岡山東商高(岡山)戦。本格派右腕の星野大地、人見公規(ともに3年)を擁する名門校相手に7回コールドで破った試合だ。この試合で糸原は2発、レフトスタンドへ放り込んだ。1本目は星野のインコース高めの直球、2本目は人見のカーブを打席で歩きながら放った。好投手2人のそれぞれの決め球を見事に捕らえた本塁打だった。
 この2発にスカウトはおろか、試合を見つめていた他校の関係者や報道陣も「あれは本物」と驚きの表情を隠せなかった。野々村監督も「あんな逆方向へのバッティングは教えてできるものではない。彼の天性でしょう」と賛辞を送った。さらに決勝の関西高(岡山)戦では先頭打者本塁打。「苦手なコースはない」と言い切る糸原の存在は選抜で対戦する投手にとっては脅威になる。

山陰勢初の全国制覇が狙える布陣

 昨年のチームは優勝候補と言われていた慶応高(神奈川)を破った。しかし夏は県大会でまさかの初戦敗退。その悔しさから今年のチームはそれを上回る力を身につけた。糸原を1番に置き続けられるのがその証拠だ。4番の出射(いでい)徹(3年)は糸原と同じ5本塁打で17打点、5番の江本昌平(3年)は13打点、さらに6番の白根尚貴(2年)も13打点と後ろの打者がこれだけの成績を残した。秋は不調だった3番の本田紘章も昨春の選抜では大活躍した。絶対的なエース・白根は防御率1.75、77イニングで90奪三振と抜群の安定感を誇った。
 山陰勢初の全国制覇へ――糸原が引っ張るチームは確実に意識できるようになってきた。

<了>
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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