自由奔放、でも負けず嫌い 19歳の新鋭・遠藤尚の素顔=男子モーグル

高野祐太

五輪初出場で日本人過去最高の7位に

 男子のモーグルは、尾崎快(早大)が高さは出ていた第2エアの着地が乱れるなどして予選落ちしたものの、遠藤尚(忍建設)、附田雄剛(リステル猪苗代)、西伸幸(白馬村スキークラブ)の3人が決勝に進出。その中で、最高成績を挙げたのは、新鋭の遠藤だった。男子モーグルで過去最高の7位は大躍進だ。これで、前日の村田愛里咲(北翔大)の8位に続き、19歳コンビが大きな仕事をやってのけた。
 五輪初出場にも臆(おく)することなく、「思い切りやってやろう」と臨み、「思ったより緊張せず、めちゃくちゃ楽しかった」と言ってのける当たり、頼もしい。
 今季のワールドカップ(W杯)ランキングは28位と日本男子の中で一番下だったが、大躍進した。記者にその理由を問われ、「オリンピックパワーですかね」と笑わせる余裕。10代らしい軽やかな口調も魅力だ。
 2008年の札幌で行われた全日本選手権でも濃い内容で上位を占めていたが、そこから着実に進化を遂げた。得意のエアで5.24点。これを上回ったのは、メダリスト3人しかおらず、存在感を示した。4年後のソチ大会では「確実に金メダルを目指す」と力強く宣言したが、十分に楽しみになってくる。身長178センチ、体重72キロの大柄な体格で、「採点競技のモーグルでダイナミックに見せることができる」と自己分析する。
 身体能力は高い。中学では陸上競技部に所属し、長距離走で力を発揮した。駅伝が得意で、福島駅伝の代表にも選ばれた。「持久力には自信があって、モーグルにも役立っています。練習で疲れにくいから、他人より1本多く滑れるんです」。

モーグルとの出会い

 モーグルに出会ったのは、小学4年か5年のとき。地元で開催されたW杯のチケットがたまたま自宅にあり、「学校を休めるから」と観戦に行った。そこで、とりこになった。特に世界チャンピオンのジャン・ルック・ブラッサール(カナダ)の滑りは「格好良かった」ことを覚えている。

 エアに力を発揮するのは、ウオータージャンプ台とトランポリンを整備した、福島県猪苗代町のリステルスキー場で育ったことが大きい。リステルが五輪選手を育成しようと始めたプロジェクトの1期生として、小学5年で競技を始めた。「チームにはスキーを履かないトランポリンだけなら、僕がかなわない後輩もいた」とジュニア時代の環境に恵まれたことを感謝する。飽きっぽいところもあり、小学で始めた剣道はすぐにやめたが、モーグルは違った。
 それでも、初めのうちは遊びの延長だった。コーチに「ここは遊ぶ所じゃない」としかられながらも、通い続けた。「ガチガチと練習すれば、もっと成績が出るかもしれないけど、僕は楽しんでやりたいんですよね」。奔放な精神は、アスリートにとって、伸びる要素になるかもしれない。
 そうするうち、次第に頭角を現す。中学1年で初めて出場した全日本スキー連盟公認レースでいきなり優勝。ところが、その後、結果の出ない時期があり、トレ―ニングの必要性に気付いてからは、より多く取り組むようになっている。そういう負けず嫌いの意志の強さがある。

どん欲な向上心

 代表の先輩から多くのことを学んでいる。上野修(リステル猪苗代)からは日ごろから釣りに連れて行ってもらうような仲。けがでバンクーバーを断念せざるを得なかった先輩の無念を力に変えた。背中を押してもらおうと、ウエアは上野修モデルを着た。「この2、3年、スキーのことやトレーニングのことで、とてもお世話になった」と話し、いい報告ができることを喜んだ。また、優れたターン技術を持つ附田からもアドバイスを請うて、どん欲に学んでいる。
 昨年、高校を卒業した後の進路は、猪苗代を飛び出し、宮城県の建設会社に就職した。午前中を中心に仕事をこなしながら、練習態勢に配慮してもらう日々を送る。「意識を変えたかった」ことが理由だ。自分に刺激を入れる独立心旺盛なニューカマーが、ソチ五輪に向けて、どんな成長を遂げるのか、楽しみになってくる。

<了>
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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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