山梨学院大附の優勝が示した勢力図の変化=第88回全国高校サッカー選手権 総括
効果的だった横森監督のコンバート
宮本のボランチ起用が碓井(中央)に自由をもたらした 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】
夏まではダブルボランチは井上拓臣と碓井鉄平のコンビだった。井上が豊富な運動量で前線に飛び出し、碓井は中盤の底で正確な長短のキックで攻撃をコントロールする形だった。それでも十分に中盤は機能していたのだが、攻撃のバリエーションと厚みという点では、正直物足りなさがあった。要するに、碓井がそこまで驚異的な存在ではなかったのだ。さらに守備面でも関篤志と中田寛人のセンターバック(CB)コンビは高い守備能力を誇っていたが、攻撃の芽を摘む役割を果たすダブルボランチの位置での守備に難を抱えていた。
しかし、夏になって横森監督は攻守の立て直しに着手した。CBの前に守備が強い選手を配置するために、CBの控えだった2年生の宮本龍をボランチに抜てき。対人と空中戦に強い宮本は、アンカーとして守備の安定という重責を担うと、碓井がより攻撃に専念できるようになった。パスを散らすだけだった碓井が2列目を自由自在に動き回れるようになったことで、2トップと両サイドハーフとの距離感が近くなり、より連動した攻撃が可能になったのだ。
特にFC東京U−15むさしでも主軸で、高円宮杯全日本ユースU−15の準優勝メンバー同士でもある右MF平塚拓真とのコンビネーションは向上の一途をたどり、このホットラインは山梨学院大附の一つの武器となった。さらに右サイドバック(SB)にコンバートした井上も得意のアップダウンと献身的な守備で平塚を強力バックアップしたことで、平塚が常に高い位置でプレーできるようになり、さらにその武器はパワーアップした。
このポジションチェンジがもたらしたのは、それだけではなかった。両CBと宮本が中央で強固なブロックを作り、さらに宮本が豊富な運動量で両サイドのケアを担当することになったことが大きな変化を生み出した。例えば、左の藤巻謙と井上のどちらか一方が攻撃参加をしたとき、宮本が上がってできたスペースをケアし、碓井か同サイドのMFが宮本のスペースをケアすることで、逆サイドのSBはあまり中に絞ることなく、常にサイドの位置で待機できる。そうすることで、常に逆サイドのMFが高いポジションを取ることができ、ボールを奪った際にすぐに逆サイドに展開して、分厚いカウンターを仕掛けることが可能になるのだ。
現に今大会では、サイドで数的優位を作り出し、スピードに乗ったアタックでサイド攻撃を展開しながら切り崩していくシーンが多々見られた。決勝戦でも鋭いサイドアタックで、青森山田を翻弄(ほんろう)した。
「この大会では両サイドがうまく絡まった『4−4−2』によって中盤でうまくボールを奪えて、そこから2トップを生かすサッカーができた」と横森監督も語ったように、夏以降のチームの変化がさらに山梨学院大附の勢いを増大させ、初出場初優勝につながった。
5年前からの変化から始まった山梨県勢の勢力図の塗り替え。そして、それがもたらした今回の全国制覇。山梨学院大附以外のベスト4の顔ぶれを見てみても、チームを取り巻く状況には山梨と同様の現象が見られる。例えば、栃木は宇都宮学園(現・文星芸術大附属)、真岡が長く2強時代を構築した。近年、矢板中央が力をつけ始め、栃木の勢力図を書き換えたことが、今回のベスト4につながっていると言えるだろう。
そのほかにもここに挙げたらきりがないほど、勢力図が変化し、新時代に突入しようとしている地域はたくさんある。地域の情勢の変化が、全国の戦力図さえも塗り替えてしまう。こんな時代が今、到来しているのだ。今大会はそれを表すひとつのバロメーターの大会と言っていいだろう。
<了>