山梨学院大附、選手に疑われて信頼されたベテラン監督
先手必勝の策をとった山梨学院大附
山梨学院大附は初出場で初優勝の快挙を成し遂げた 【たかすつとむ】
山梨学院大附の横森巧監督も決戦前日に「向こうの方が格上。何をやってもダメかなとも思う。みんなで守りながらどうやって攻撃の糸口を見つけるかだけど、そもそも守り切れるのかどうか、それを考えてみる。失点覚悟でいるけれど、(このチームにとって)最後だから前を向いて恥ずかしくないサッカーをさせたい」と謙虚に話し、戦前予想での不利を認めていた。
しかし、過去に韮崎高校(山梨)で3度決勝戦を戦った経験を持つ名将は、苦戦覚悟の中で取るべき道を選び抜いた。作戦は前半20分間をハイプレッシャーで進め、試合の主導権争いで先手を打つこと。山梨学院大附はキックオフから怒とうのプレスで相手の攻撃を封鎖した。FW佐野敬祐は相手GKがマークの対象であるかのようにどこまでもボールを追い続け、サイドのMFとDFは果敢なスライディングタックルでタッチライン際を攻める相手の行き場を削り取る。右DFの井上拓臣は、32分に右足首の負傷で無念の交代となったが「この3年間で一番良い試合の入り方だったと思う」と抜群のスタートダッシュに手ごたえを感じていた。全体的に緊張感と硬さが見受けられた青森山田を尻目に次々と高い位置でボールを奪い、前半11分には主将・碓井鉄平が鮮やかなミドルシュートを決めて先制した。
リードを最大限に生かした戦い方で勝利
攻守にわたってチームをけん引した山梨学院大附の主将・碓井(中央) 【たかすつとむ】
謙虚さでいえば、MF柴崎岳を中心とする相手の攻撃陣に対して、十分な警戒を払った。ハイペースのうちはゴールまでの距離にかかわらず強引にでもシュートで攻撃を終え、相手にカウンターの好機を与えることを防いだ。当然、ロングシュートは決めるのが難しく、得点にならなければ相手のボールになる確率が高い。本来ならば、無理なシュートは避けてパスワークでボールを保持しながら決定機を作り出したいところだが、相手の力量を認めて割り切った作戦だった。また、攻撃面でけん制をしなければ、監督自身が懸念したように相手の攻撃力に押し切られる可能性は高かっただろう。
山梨学院大附は後半25分に大型2年生FW加部未蘭を投入すると、前線でキープするだけでなくFW伊東拓弥が絡んでゴールへ迫り、最後まで相手に脅威を与え続けた。最終的にスコアは1−0のまま終わったが、その姿は本当の意味で失点を覚悟して臨んだ証しのように感じられた。
一方、ペース配分のコントロールには自信が垣間見えた。プレッシングオンリーでは終盤にスタミナ切れから防戦一方となるリスクがあったが、前半25分には通常のペースへ戻した。柴崎のマーカーとして守備面で獅子奮迅の活躍を見せた2年生MF宮本龍は「あのハイテンポで最後までいくとは思っていなかった。3年生が多いし、いつもそのへんはコントロールしてくれる」と話し、司令塔の碓井は「思った以上に相手の入り方が悪く、こっちはボールを受けた後のターンもできた。これはチャンスだと思った」と冷静に状況を見つめていた。
ペースを落とした後は計ったように試合の主導権を奪われたが、完全にリズムをつかんでしまえば早期の連続失点を食う恐れはないという自負の表れでもあった。ハイペースのうちに先取点を奪えたからこそ成し得た判断だと思うが、リードを最大限に生かした戦い方だった。
試合前日の取材の最後、横森監督は「優勝のイメージはどれぐらいできていますか」と質問を受け、穏やかな表情のまま目つきを鋭く変えた。それまでは冒頭に紹介したように「相手が格上」とにこやかに話していた指揮官だが、少し言葉を選んでこう答えた。
「五分。五分の権利はあると思っています」
侮ることなく、恐れることなく。謙虚さと自信を象徴するような一言だった。