関大一、自分たちのサッカーを信じ続けた結果=高校サッカー準決勝

安藤隆人

関西大学第一が大阪代表になったことだけでもサプライズ

井村一貴のボレーが土壇場で青森山田のゴールネットを揺らす 【鷹羽康博】

 関西大学第一の大冒険は準決勝で幕を閉じた――。

「わたしたちスタッフもなぜウチのチームがここ(国立競技場)にいるかが分からない」
 試合後の会見で佐野友章監督がこう語ったが、この言葉に思わず同意してしまった。なぜならば、この大躍進は戦前では到底予想できなかったからだ。関西大学第一には悪いが、正直ここまでくるとは思わなかったし、大阪府予選を制した時点で大きなサプライズだった。

 今年の大阪は「2強時代」と呼ばれていた。2強とは大阪桐蔭と金光大阪。ともに攻守に軸となるタレントをそろえ、実力は大阪府内で抜きん出ていた。インターハイ予選は金光大阪が制し、インターハイでは3回戦に進出した。そして大阪桐蔭はプリンスリーグ関西1部に所属し、高円宮杯全日本ユース(U−18)選手権への出場権を獲得した。高円宮杯では三菱養和SCユースに引き分け、大分トリニータU−18を撃破し、決勝トーナメントに進出。初戦で藤枝明誠に延長戦の末に1−2で敗れたが、ユース年代最高峰の大会でベスト16は立派な数字だった。加えてDF福村貴幸が京都サンガに内定し、FW高須英暢も川崎フロンターレに入団が内定するなど、その力はゆるぎないものだった。

 だが、大阪府予選で大阪桐蔭が早々に敗れるという大波乱が起こると、状況は一変。金光大阪を筆頭に、2番手と言われていた大阪朝鮮、近大附が名乗りを挙げるかと思いきや、そのすべてをなぎ倒してきたのが、ノーシードだった関西大学第一だった。
 決勝では金光大阪を相手に、真っ向勝負を挑むと、最後まで走り負けることなく、3−2の乱打戦を制した。延長戦の末の大金星。金光大阪は今年度に入って府内の公式戦無敗中で、関西大学第一は新人戦もインターハイ予選いずれもベスト32で姿を消していただけに、いかにこの優勝が大きなサプライズだったかが分かる。

終盤の同点劇で奇跡が起こるかと思われたが……

奇跡的な同点劇に喜ぶ関西大学第一 【鷹羽康博】

 そして今大会、ふたを開けてみると、中身の濃い戦いであれよあれよの快進撃。彼らの見せたサッカーは単純な走るサッカーではなく、統一見解の下に全員が連動する、非常にハイクオリティーなサッカーであった。

 そしてたどり着いた夢の舞台・国立競技場。彼らは立ち上がりから青森山田というネームバリューにひるむことなくエンジン全開で襲い掛かった。3分に得意のセットプレーから、DF小谷祐喜のシュートがポストに当たると、17分にはMF梅鉢貴秀のループパスに、MF濱野友旗が抜け出し、GKと1対1になるが、これはブロックされた。18分にもエース久保綾祐が1対1になるが、これもGK櫛引政敏のファインセーブに阻まれた。たび重なる決定機をモノにできないでいると、31分にPKを献上して先制を許し、39分には青森山田のMF椎名伸志に追加点を決められた。

 後半も青森山田の高いポゼッションと、複数人が連動する崩しに苦しんだ。もう関西大学第一は厳しいかと思われた。しかし、彼らの目は誰一人として死んでいなかった。それこそが関西大学第一をここまで引き上げた真の力であった。やることは一つ。運動量を落とすことなく、ボールホルダーを全員でフォローして、愚直なまでにゴールに向かってアタックを仕掛ける。これをどんな状況でも、フルタイム続けることができたからこそ、ここまで来れたのだった。

 3バックにし、小谷を前線に上げてパワープレーで点を取りにいった関西大学第一は89分、左サイドバックの横川玄が久保とのワンツーで抜け出し、センタリング。これはDFに引っかかったが、こぼれ球を拾った久保が執念でゴールにねじ込んだ。そしてロスタイム、GKのFKからゴール前の混戦に持ち込み、こぼれ球を交代出場のFW井村一貴がハーフボレーで逆サイドネットに突き刺した。

 奇跡が起きた。残りロスタイムを入れて4分間での同点劇。関西大学第一の冒険はまだ続くかと思われた――。
 しかし、ここまでだった。PK戦で3人がGKにストップされ、勝利の女神は青森山田にほほえんだ。

関西大学第一の快進撃の終わり

3位の表彰式でその場に倒れ込む関西大学第一の選手たち 【鷹羽康博】

「中学のとき、練習を見てピリピリしていい雰囲気だったし、このチームに何かがあると思って迷わず入部を決めた」
 こう語るのは、スタメンで唯一の1年生MF和田紳平だ。「大事なのは環境ではなくて、一緒にサッカーをやる人間。その点で関西大学第一が一番でした」(和田)。

 単純にサッカーの能力だけではない“人材”がいるからこそ、そこに魅力を感じた“人材”が引き寄せられる。だからこそ、目標に向かって全員が同じ方向性を向いて一丸となることができる。
「技術で劣る分、運動量や寄せ、球際で負けないようにした。気持ち、集中力、運動量で勝負する。これを選手たちがよく理解してくれた」(佐野監督)。単純に走らせるのではなく、なぜ自分たちにこれが必要なのか理解させた上で実行する。終始謙虚な姿勢を取る佐野監督の巧みな人心掌握術があったからこそでもあった。

 大会にさわやかな旋風を巻き起こした関西大学第一。大阪の3番手、4番手に位置していたチームが巻き起こした快進撃は、この大会のキャッチフレーズ『信じろ!』を実践したからこそ、なし得た物であった。監督を信じ、仲間を信じ、自分を信じ、まっすぐに取り組んできたからこそ、開いた大輪。紫紺の選手たちに心からの拍手を送りたい。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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