ハマった香川西の前橋育英対策=高校サッカー2回戦

鈴木潤

タレント軍団前橋育英と対峙するにあたって

香川西がインターハイ王者の前橋育英を下し3回戦へ進出 【岩本勝暁】

 ロスタイム3分が経過した直後、レフェリーの笛の音が鳴った瞬間に香川西のベンチから控え選手たちがピッチになだれ込もうとするも、それが試合終了ではなくファウルの笛だと気づいて彼らはそそくさとベンチへ引き揚げていった。すでに大金星を確信したのか、それとも単に勘違いをしたことによる照れ笑いなのか、とにかくベンチへ引き返す彼らが満面の笑みを浮かべていたのが非常に印象的だった。そしてその数十秒後、今度こそ試合終了を告げるホイッスルが鳴り響き、あらためて彼らはベンチを飛び出し、まるで優勝でもしたかのように全身で勝利の喜びを表現した。3−2で勝利した香川西は前年に引き続き2年連続でインターハイ王者を撃破したのである。

 夏冬連覇の2冠を狙う前橋育英は、U−17日本代表として10月のU−17ワールドカップを経験した小島秀仁、昨年度の日本高校選抜メンバーの中美慶哉、西澤厚志、そのほかにも昨年度の選手権ベスト4を経験したメンバーが名を連ねるタレント集団である。
 前橋育英は試合開始早々から、ボランチの小島が放つ鋭いくさびのパスに、長身FWの皆川佑介のポストプレーを絡め、西澤、中美、粕川正樹、三浦雄介らが長短のパスをつなぎながら、3、4人が連動して鮮やかな攻撃を繰り出していた。黄色と黒の縦じまのユニホームに身をまとった“タイガー軍団”前橋育英が、さすがと思わせるコンビネーションプレーを展開して香川西を攻め立てた。

 しかし、香川西の大浦恭敬監督は、この夏の王者への対応策を十分に練っていた。まず群馬県大会決勝「前橋育英対新島学園」のビデオを選手たちに見せることで、対戦相手がどのような特徴を持っているかをイメージさせ、それらを理解させた上で前橋育英のわずかな急所に狙いを定め、勝機への突破口とした。
 前橋育英は攻撃的な選手が多く、中盤より前とディフェンスラインの間にギャップが生じるため、そこを突いてディフェンスラインの背後を素早く狙う。「3ラインをしっかり作って前橋育英の攻撃に備え、奪ってからひとつつないで裏のスペースを狙っていこう」。試合前、大浦監督はそう指示を出した。

香川西の狙い通りに進んだ前半

 また、戦い方だけでなく、この日の試合にスタメン起用した選手も前橋育英対策によるものである。本来、正GKとしてゴールマウスを守るのは今林宏憲だが、前橋育英の長身選手に対抗するために、今林ではなく身長186センチの澤柳雄哉を起用した。さらに相手の裏のスペースを突くために、右サイドにはスピードのある中谷純也を抜てき。この中谷も通常はスタメンではなくベンチスタートの選手だった。

 そんな大浦さい配は面白いようにハマった。リトリート(撤退)して自陣にブロックを形成し、前橋育英の展開する攻撃に耐えながら反撃のチャンスを虎視眈々(たんたん)とうかがっていた香川西は、ボールを奪うと相手のディフェンスラインの前でワンクッションを置き、そこから一気に福家勇輝、大西晃広の2トップや、中谷、伊藤星斗の両サイドアタッカーが果敢に裏のスペースに飛び出して相手ゴールへ襲いかかった。

 22分、左サイドの伊藤が敵陣深くまで突破し、中央へグラウンダーのクロスを送った。これを前橋育英GK志村智久がファンブル、こぼれ球をゴール前へ飛び込んできた中谷が左足でプッシュして香川西が先制した。28分にも、2トップのスピーディーなカウンターから、ペナルティーエリア内へと侵入した福家を前橋育英のDF代田敦資が引っ張ってしまい、PKの判定が下された。福家が自らこのPKを沈めて2−0。香川西は31分に1点を返されたものの、失点からわずか1分後の32分に高い位置でボールを奪い、発動したショートカウンターから福家が再び決めて3−1とした。香川西が前半で放ったシュートは4本。そのうち3本をゴールに結びつけた。

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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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