青森山田、我慢の末につかんだ「三度目の正直」=高校サッカー2回戦

平野貴也

鬼門の初戦を突破できるか

青森山田は神戸科学技術を2−0で下し、鬼門の初戦を突破した 【写真は共同】

「三度目の正直」で鬼門の初戦を突破した。13大会連続の青森山田(青森)は毎年ハイレベルなチームを作り上げているが、前々回の大会では岡山県代表の作陽(その前年度の大会で準優勝)前回大会は大迫勇也(鹿島)を擁し準優勝した鹿児島県代表の鹿児島城西にどちらも1点差の接戦で敗れて初戦で姿を消した。

 今大会では神戸科学技術(兵庫)と対戦。相手は2年ぶり2回目の出場と歴史は浅いが、プロを多数輩出した名門・御影工の伝統を引き継ぐ(2004年に神戸工と御影工を統合して神戸科学技術が新設された)関西の強豪で、青森山田が鬼門の初戦を突破できるかどうかは、組み合わせ決定時から1つの見どころだった。

ゴールを奪えなくても冷静に

この日2ゴールを決めた青森山田の野間涼太 【写真は共同】

 試合は前半から青森山田がペースを握った。左足前十字じん帯の断裂から奇跡的な回復で戦列に復帰したMF椎名伸志はU−18代表候補、MF柴崎岳とDF中島龍基はU−17代表。選手の能力は高い。質の高いパスが効果的に配球され、相手から奪ったボールを軽快に最前線まで運んでいく。
 ただし、エースストライカー野間涼太のヘディングシュートはことごとくGKの正面に飛び、攻めても攻めても得点を奪うことができなかった。前半を終わって0−0。戦力に勝るチームの敗戦にありがちなのは、こうした展開から攻撃陣がいら立ちを見せ、全体の集中力が切れて失点するケースだ。スタンドの応援団はすでに焦れ始め「とりあえず、シュートを打て!」と叫んでいた。

 しかし、前回大会の経験者が6人も残っている青森山田は落ち着きを失わなかった。無理に縦へ急ぐことなくパスをつなぎ、ゴール前でも強引に打つのではなく、ポストプレーで後方から走り込む味方へパスを残すなど丁寧な攻撃を続けた。
 中盤の底でチームを統率した椎名は「いら立ちはなかった。だから、この試合を勝てたのだと思う」と勝因を言い切った。後半は我慢が報われ、66分に野間がゴール正面やや左から冷静な切り返しでボールをコントロールすると、二アサイドへ鋭い右足シュートを突き刺して先制に成功した。

 ただ、過去2大会では1点差のゲームで地獄を見てきただけに、見守る方は気が気ではないようだった。メーンスタンドでは青森山田を応援しに訪れた年配の女性が、ボールが自陣へ近付いて跳ねるたびに「ううっ、ああっ、わー、ダメダメダメ!」と周囲の耳を独占するほど悲鳴を上げ、その声が途切れても「コーナーキック、おっかねんだよねえ……」と心配のつぶやきを漏らしていた(ちなみに、選手が負傷でうずくまると、自分のことのように「痛い、足が痛い」とうめいてもいた)。

 実際、神戸科学技術にとっては惜しい場面もあったのだが、前半に左ひざを痛めたエース伊佐耕平が後半早々に負傷で交代した影響もあり、同点弾は生まれなかった。そして、青森山田は75分に追加点をマーク。左からのセンタリングを野間が頭で押し込み、残り時間5分で親身に応援する年配女性にようやく安堵(あんど)を届けた。
 後半に面目躍如の活躍を見せたエースストライカーは「前半はゴールの枠を意識し過ぎてシュートが真ん中に飛んでしまった。外し続けて守備陣に申し訳ないと思ったけど、もう一度チャンスを作ってくれるはずだと仲間を信じて、次の準備のことだけを考えていた。全国大会で初めて勝って、今までにはないうれしさがある」と笑顔で殊勲の2ゴールを振り返った。

「初戦を勝って自信になると思う」

「能力は高いし、いいチームなんだけど勝てない」と言われ続けた青森山田だが、ようやく三度目の正直で初戦を突破した。黒田剛監督は「苦しいことも粘り強く、辛抱強く対応しようと言って送り出した。苦しい、厳しい、難しい、すべての言葉が当てはまるぐらい、選手には言った。冷静にやってくれたし、初戦を勝って自信になると思う」と話し、さらなる躍進に向け、闘志を垣間見せた。
 はた目にはサッカーの質だけで勝ったようにも見えなくもないが、ボールと人が動くムービングサッカーの結実を信じ、仲間を信じ続けた青森山田の我慢強さが光った勝利だった。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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