戦術的なチーム、作陽の強みと弱み=高校サッカー2回戦
作陽がセットプレーによる2得点で勝利
試合後、先制点の直接FKを決めたMF渡部亮武について聞かれ、作陽の野村雅之監督はこう答えた。冗談混じりではあったが、メディアを通して情報戦を仕掛けるあたり、同監督のしたたかさと経験を物語るコメントだったと思う。
2回戦ということもあってか両チーム共に落ち着いた立ち上がりで、守備組織を整えながらもマイボール時には丁寧にボールをつないで前線に運ぼうという意思が見受けられた。しかし、前半8分に作陽は前述の渡部がGKの意表を突いたFKを直接たたき込み先制。続く10分にはスローインから1回戦で2ゴールを決めているトップ下の柳直人が決めて2点目を奪った。開始10分で2点を追いかける立場となった地元・埼玉の西武台は、浮き足だったのか持ち味のパスワークが冴えず、個人の強引な突破を試みては作陽の強固な守備ブロックに跳ね返されてしまう。
ハーフタイムで西武台の守屋保監督は、「素早いサイドチェンジからのサイド攻撃」を指示し、「それで1点は取れると思っていた」という。事実、34分には「狙い通り」という形で右サイドを崩し、クロスにFW佐瀬達也が合わせて1点を返すも時すでに遅し。試合巧者の作陽にうまく時間を使われ、試合は2−1で作陽の勝利に終わった。
西武台と作陽の戦術レベルの差
選手1人1人の個人能力を比較すれば、西武台も作陽もそう大差はない。むしろ、作陽の方が劣っていたように見えたし、失礼ながら今年の作陽がインターハイ出場を逃し、プリンスリーグ中国で2部降格の憂き目に遭った理由も何となく分かる。しかしながら、チームとして見た時には状況判断の部分に差が出ていた。
特にシステム面で作陽を見ると、4−2−3−1をベースとしながら、4−1−4−1にも4−4−2にも変幻自在に変わる。それを試合中、選手が監督の指示ではなく、自らの判断でごく自然に変えていく。ポジションにしてもしかり。トップ下の柳と左MFの武井優は頻繁にポジションチェンジを行うし、ボランチが攻撃参加した時には2列目の彼らがこれまた自然に下がっている。作陽には対戦相手や試合状況、流れによって柔軟にシステムや戦い方を変えられるだけの引き出しがある。それが「作陽は戦術的なチーム」、「作陽の選手は戦術眼に優れる」と評価されるゆえんだろう。戦うすべを知る作陽は多少総合力で上回るようなチームを相手にしても、柔軟に対応しながら勝ち抜く力を持っている。それが戦術的なチーム、作陽の魅力であり強みだろう。
作陽の弱みとは?
この試合でも、プレスにいくFW陣の「ボールを奪えそう」という判断に中盤以下の選手が連動していない場面が目に付き、そこで生まれるスペースを使われて、西武台の右サイドバック・楠本一彦に何度も効果的なドリブルを仕掛けられていた。
また、西武台は徹底的に狙っていかなかったが、センターバックとGKの間に落とされるようなクロスやロングボールの処理に難がある。特に、高さに絶対的な自信を持ち、周囲からの信頼も厚いセンターバック・浅田有佑の背後にボールが落ちると、守備陣が慌てる傾向にある。
3回戦の相手、矢板中央は187センチの長身FW中田充樹を擁し、組織的にハードワークをこなす好チームと聞く。作陽の戦術的な弱みを徹底的に突くような戦いを前に、彼らがどうリアクションするのか。次はそんな試合を見たい気もする。
<了>
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