四日市中央工に「東海の名波」あり=高校サッカー1回戦

平野貴也

身長163センチのレフティー

2ゴールを挙げた2年生FWの山口。ボレーとヘッドで勝利をもたらした 【鷹羽康博】

 3人のヒーローが東海の伝統校を鮮やかな勝利へ導いた。四日市中央工(三重)は試合の立ち上がりこそサイドMFを4トップ気味になるまで積極的に押し上げる盛岡市立(岩手)の攻撃に苦しんだが、15分を過ぎて試合が落ち着くと、一気に展開力のあるパスサッカーに引きずり込んで相手を翻ろうした。前半のうちに先制すると、後半に一度追いつかれても迫力ある攻撃で突き放し、2−1で競り勝った。

 四日市中工の攻撃で特に目を引いたのが、左MF武藤健剛だ。身長163センチと小柄だが、左足のキックは正確無比。結果的には得点に絡むことはできず、本人は「マークが張り付いて、徹底的に縦のコースを切ってきた。いいクロスを上げられた場面もあったけど、本当はもっと縦に突破してからクロスを上げたかったので、満足はしていない」と話したが、その存在感は抜群だった。低く速いセンタリングを絶妙のタイミングでゴール前へ送り込むと、そのワンシーンだけで武藤を警戒した相手のサイド攻撃は威力が半減してしまった。

 中学時代はボランチ。憧れの存在は元日本代表MF名波浩で、ファンクラブに入っているほどの筋金入りだ。右足そばのボールを左足アウトサイドで蹴るなど、希代のレフティー同様に左足へのこだわりは強い。「今は別の仕事がある」と武器をスルーパスからクロスへ切り替えたが、四日市中央工にとって小さな「東海の名波」の貢献度は大きかった。

スピード感ある展開を見せた「司令塔」伊達

四日市中央工の司令塔・伊達(右)は的確なパスでゲームをコントロールした 【鷹羽康博】

 その武藤を含めて両サイドを効果的に使っていたのが、司令塔で主将も務めるMF伊達勇人だ。「レベルが上がるほど、ボールを止めて顔を上げることは難しくなると思っている」と語る伊達は、盛岡市立戦でもパスを受けると相手の守備が薄いエリアへあっという間にパスを散らした。サイドMFが優位な状況で攻撃を仕掛けられるのは、彼の働きによるところが大きい。試合をコントロールする力は秀逸だ。

 伊達は「前回のベスト8を超えてベスト4に入ることを目標にやってきた。今日はとにかく勝てたので良かったけど、次は内容にもこだわりたい。1試合やって落ち着くと思うし、そうすればもっとチームは機能する」と、次戦以降に一段高いギアチェンジの披露を誓った。

2得点の山口「ジャンプは得意、ヘッドは不得意」

 そして、チームが勢いに乗るかどうかの鍵を握るのが、2年生の働きだ。この日は2年生FW山口幸太の2発で、粘る盛岡市立を突き放した。前半終了間際38分の1点目はセットプレーから味方がヘッドで落としたボールをボレー気味に押し込んだ。さらに試合終了間際の77分には決勝弾を決めた。右サイドからの大きく高い比較的ゆっくりとした弾道のセンタリングにジャンプ一番、上背のある相手DFの上から打点の高いヘディングシュートを打ち下ろすと、ポストに当たったボールはゴールへと吸い込まれた。

 躍動した2年生ストライカーは「滞空力には自信があって、ジャンプは得意。でも、本当はヘディングが得意じゃない。いいボールが来たから決められた」と笑うが、樋口士郎監督は「ボールに対するひたむきさが持ち味。素晴らしいゴールだった」と伸び盛りの成長株をたたえた。

 主力に3年生が多く安定感があった昨年度のチームに比べ、今年度のチームは下級生が多い。指揮官は「今年は、ふたを開けてみないと分からない部分がある。今日は失点の匂いがプンプンしていたし、1点取られると思っていた」と語ったが、一方で「でも失点は多いチームだけど、今日みたいに追いつかれても最後に取れる」とチームの勝負強さを評価する。力量ある3年生と2年生の伸びしろがさらにかみ合えば、悲願の国立進出は射程圏内だ。2回戦の相手は堅固な守備とパワフルなアタックを武器にする境(鳥取)。一段ギアを上げるパスサッカーでさばき切れるか、要注目だ。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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