強風に涙をのんだ東久留米総合=高校サッカー1回戦

平野貴也

前半に風上を選択するも思わぬ結果に

境の松川智哉(左)と競り合う東久留米総合のDF田代宝 【鷹羽康博】

 コイントスに勝った東久留米総合の主将・武藤尭行が意見を仰ぎに来たとき、齋藤登監督は風上エンドの選択を指示した。相手の境は、縦へ速い展開を狙うスタイル。風下なら得意のサッカーがやりづらくなるだろうという判断だった。しかし、これが思わぬ結果を招いた。

 時間の経過とともに風は強まり、エンドが代わった後半は風の後押しを受けた境の猛攻撃にさらされた。ゴールキックやDFのクリアはことごとく風に押し戻された。海風が吹く他会場ならある程度予測もできただろうが、平坦な内陸部である西が丘サッカー場では珍しい光景だ。
 地元の東京都で長く指導者のキャリアを積んでいる齋藤監督でさえ、「こんな強風は初めて。さらに強まるなんて予想していなかった」と驚かされた天気のいたずらで、後半に入ると東久留米総合は自陣でのハーフコートゲームを強いられた。

唯一のチャンスも境・廣川監督の好さい配で封殺

後半の東久留米総合は風上に立った境の猛攻撃にさらされ、守備一辺倒となった 【鷹羽康博】

 東久留米総合に唯一チャンスがあったのは、前半の立ち上がりだった。風上に立ち、得意のサイド攻撃で境の守備を切り裂いた。特に2年生MF上村将仁のドリブルは素晴らしく、2〜3人に囲まれてもスルスルとすり抜けてチャンスを演出した。
 しかし、境の対応は素早かった。左足に負傷を抱えながら先発したMF西村駿が相手のスピードについていけないと判断した廣川雄一監督は前半の25分で早くも選手交代。西村に代えて突進力のあるFW森山眞吾を投入して守備力の回復と攻撃の活性化を同時に成功させた。

 早々に突破口を封じられた東久留米総合は、後半の駆け引きが勝負どころとなるはずだっただけに、強風の誤算はこれ以上なく痛かった。後半はシュート数ゼロ。「何倍もの力となる境の攻撃を受けなければならなかったのはつらかった」と指揮官が認めた劣勢の中で守備陣はよく耐えたが、疲弊が見えた67分には押し込んだ境のショートパスについていけず、境の右DF片岡義貴にゴールを奪われた。
 東久留米総合にとっては試合前日に右DF丸山卓也がインフルエンザで離脱し、自慢の両翼が片方欠けただけでも大きな痛手だったが、当日まで大誤算に見舞われ続ける厳しい格好で、その挑戦は幕を閉じた。

「久留米の歴史を変えたかった」

三度目の挑戦も1回戦で跳ね返され、涙にくれる東久留米総合イレブン 【写真は共同】

 久留米と清瀬東を統合する形で2007年4月に新設された東久留米総合は初出場だが、前身にあたる久留米では2度出場している。しかし、3度にわたって1回戦で跳ね返される結果となった。
 武藤主将は「勝って久留米の歴史を変えたかったから本当に残念」と涙を流した。しかも、今回は相手がロングボールを生かすタイプだっただけに、こだわりのパスサッカーでねじ伏せるという持ち味を発揮できなかった悔しさは特に強かった。

 司令塔のMF大塚直穂は「こういう言い方をしてはいけないかもしれないですけど、ああいうサッカーには負けたくなかった……」と久留米サッカーを見せられずに敗れた憤りをかみ殺した。そして、こう付け加えた。「うちは来年もやれる。やってくれると信じています」
 プレーする選手、試合を見る観客が楽しいと思えるサッカーという久留米のアイデンティティーを全国の舞台で発揮し、悲願の初勝利を――。思いは新設校の2期生へと託された。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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