偉大な親の背を追う、新時代の帝京=高校サッカー開幕戦
帝京有利を強く感じさせたが……
開会式直後の開幕戦は独特の場。名門・帝京といえども国立の雰囲気にのみこまれた 【岩本勝暁】
全国高校サッカー選手権の開幕戦は、すべての試合に先立って聖地・国立競技場で行われる。あこがれの舞台は華やかな開会式が行われた直後で独特の雰囲気に包まれ、両チームのイレブンは、その中で1万2394人という大観衆の視線を浴びた。開幕戦は独特の場となるからこそ、経験がものをいう。だから、大舞台に慣れているチームが有利とも言われる。
そういう意味では帝京ほど有利なチームはないはずだった。戦後最多タイ6度の優勝という栄光の歴史を持ち、地元の利もある。選手入場時には、強い帝京の復活を望む声援とともに「帝京魂」の巨大フラッグがバックスタンドに揺らめいた。その瞬間には帝京有利を強く感じさせたが、キックオフの笛からほどなく事態は別の展開を見せていった。
国立の雰囲気にのまれた伝統校
帝京の高木(7番)は試合中に攻撃の修正ができなかったことを悔やんだ 【岩本勝暁】
MF高木利弥は「国立は初めてだし、昨年も出場したけど雰囲気が全然違う。何とか声援に応えたかったけど、今日は試合の流れを読んで判断することができず、キープしてサイドバックの上がりを待つのか、トップの位置へ抜けてロングボールを呼び込むのか、ハッキリしたプレーができなかった」と修正しきれなかった攻撃を悔やんだ。
サイド攻撃に絞ることで目指すサッカーをシンプルにしたはずが、それでもなお帝京は混乱のさなかにいた。いつもの帝京じゃない……その思いは、ベンチで見守っていた指揮官も同じだったようだ。廣瀬龍監督は「みんな気持ちがハイになってしまって、状況を見る、判断するということができなくなってしまった。『シンプルにいこう』と言ったが、つないでいいところも蹴ってしまった。スタートの時点からそういう流れを避けられなかったわたしの責任」とうなだれた。
「まだ父には追いつけない」
しかし、高校サッカーを取り巻く状況は大きく移り変わっている。関東はJチームの下部組織が多く、新興の私立高校も少なくない。以前ほど優秀な人材をかき集めることは難しくなった。時代の変化に対応するため、中学年代には帝京FCというジュニアユースチームを立ち上げるなど、着々と努力を続けている。
攻撃のキーマンでありながら思うように仕事ができずに悔しい思いをした右MF廣瀬公紀は、指揮官の子息。「まだ父には追いつけない」と唇をかんだが、指揮官もまた選手権V6の金字塔を打ち立てた恩師を目標としている。
廣瀬監督は「選手には『全国では勝てなかったけど、関東大会予選、インターハイ(高校総体)、選手権と東京都で3度チャンピオンになったのは立派だ』と言った。監督就任から3年連続で全国に出たことは、古沼先生も褒めてくれているらしい。でも、(日本で)1番になるのは難しい。まず出ないことには(権利がないので)また来年に向けて頑張りたい」と再挑戦を誓った。
東京で覇権を取り戻すための日々から、全国で勝てるチームへ。新時代の帝京は、移りゆく時代の中で偉大な先人の背中を追いかけ続けている。
<了>
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