第88回高校サッカー選手権展望(前編)=広島観音〜前橋育英

安藤隆人

初出場ながら山梨学院大附は実力十分

 山梨学院大附は初出場だが、いずれ全国にその名をとどろかすだろうと、関係者の間でささやかれていたチームだ。学校がサッカー部の強化に注力し、多くの選手が県外からやってきた。中でもFC東京U−15むさしのメンバーが多く加入した。現在の3年生はFC東京U−15むさし時代に、高円宮杯全日本ユース(U−15)で準優勝を経験している。そのチームでレギュラーとして準優勝に貢献し、山梨学院大附の中盤の核となっているのがU−18日本代表候補のMF碓井鉄平とMF平塚拓真の2人だ。
 碓井は緩急をうまく使ったプレーで、中盤を巧みにコントロール。平塚は中学時代はサイドバックだったが、高校ではポジションを1つ前に上げたことで、持ち前の突破力がさらに生かされるようになり、決定力にも磨きがかかった。

 さらに、長い距離をスピードを殺さずに走り切れる走力と正確なキックが魅力の左サイドアタッカー・伊東拓弥、187センチの長身を誇るパワーストライカー・加部未蘭、183センチの屈強なセンターバック関篤志ら、攻守に個性的なタレントを配置している。
 中でも加部はゴール前で抜群のポジショニングを誇り、バリエーション豊富な動きで自分のシュートポイントに入ると、鋭いスイングでゴールを陥れる。自分の明確な形と、抜群の得点嗅覚(きゅうかく)を持ったハイセンスなポイントゲッターだ。今大会でその名を全国に知らしめることができるか注目したい。

 この個性派集団をまとめるのは、山梨の知将・横森巧監督。かつて名門・韮崎の黄金時代を築き上げた山梨きっての名将が、県内にムーブメントを起こした。選手権県予選準決勝では、かつて率いた韮崎を3−0で一蹴し、歴史を塗り替えた。個性が反発しないように緻密(ちみつ)に組み合わせ、強固なチームを構築した名将がいる限り、彼らは決して単なる「新興勢力」ではない。優勝も射程圏内に入れることができるほどの実力を持つ山梨学院大附。初出場と侮るようだと、対戦相手は痛い目に遭うだろう。

優勝候補の前橋育英、広島観音も万全

U−17W杯でも活躍した小島(左)は中盤の底で前橋育英の攻撃を組み立てる 【安藤隆人】

 優勝候補に挙げられるチームも調整に余念がない。インターハイチャンピオンの前橋育英(群馬)、高円宮杯全日本ユース(U−18)ベスト16の広島観音(広島)。この2チームは、高円宮を通じてさらにチーム力を上げてきた。

 前橋育英は他チームもうらやタレントがチームとしてかみ合ってきている。DF小山真司、代田敦資、木村高彰、MF小島秀仁、中美慶哉、三浦雄介、FW西澤厚志、皆川佑介と、注目選手を挙げだしたらきりがない。総合力では間違いなく今大会ナンバーワン。ただし、毎年のように初戦で額面通りの力を発揮できず苦しむだけに、2回戦の香川西戦が一番大きな関門になるだろう。

 広島観音はインターハイ県予選決勝で広島皆実にPK負けを喫してから、FWだった岡崎和也を左サイドバックにコンバート。畑喜美夫監督の思い切った策が的中し、FW竹内翼、MF柳田優介、田中杏平、DF宇都宮憲司、GK原田直樹の強固なセンターラインに、新たにオプションとして左サイドのアタックが加わり、攻撃のバリエーションが一気にアップ。高円宮杯では、グループリーグを無敗で突破。決勝トーナメントでは1回戦でFC東京U−18に1−3で敗れたが、大きく見劣りしたわけではなかった。
 そして選手権県予選決勝では、前回王者の広島皆実を下したことで、今大会に向けて勢いがついた。畑監督も今のチームに大きな手応えを感じており、狙うはずばり昨年の広島皆実に続く、広島県勢2連覇だ。

野洲、矢板中央、日章学園にも注目

矢板中央の最前線を張る大型FW中田(中央)。長身を生かして攻撃の起点となる 【安藤隆人】

 ほかにも、野洲(滋賀)、山形中央(山形)、矢板中央(栃木)、日章学園(宮崎)、一条(奈良)、尚志(福島)、武相(神奈川)、帝京などが面白い存在ではあるが、この中からあえて3つ挙げるとしたら、野洲と矢板中央、日章学園か。

 野洲は夏以降、攻撃面の課題の修正に着手した。スピードのあるしなやかなストライカー・梅村崇の相棒がなかなか見つからなかったが、ここで山本佳司監督は、豊富な運動量と対人プレーの強さ、抜群のテクニックを誇る松田康佑をボランチからFWにコンバート。彼が前線で起点になったことで、梅村崇の個性がうまく生かせるようになり、破壊力抜群の2トップに生まれ変わった。
 松田の抜けたボランチには、テクニックとパスセンスに秀でた卯田堅悟をトップ下から下げたことで、攻守のバランスは崩れることなくスムーズにチームのボトムアップに成功した。山梨学院大附との一戦は、お互いの個性が真正面からぶつかり合う好ゲームが期待できるだろう。

 矢板中央は1、2年生にタレントを擁する。プリンスリーグ関東では屈辱の2部降格を味わい、インターハイ県予選でも準々決勝で宇都宮短大附属に敗れるなど、苦しいときを過ごしたが、こうした悔しい経験が1、2年生を心身共に大きく成長させた。
 173センチとGKとしては小柄だが、それを補うに十分な技術を持っているGK三浦拓、技術に優れ、ワンステップ、ツーステップから繰り出される正確なロングキックでゲームをコントロールするMF渡辺裕紀、187センチの大型センターフォワード・中田充樹の2年生がチームの中核を担う。さらに期待のスーパールーキーFW石井涼斗が控えている。183センチの長身ながら、中田同様に足元がうまくゴールセンスもある。1、2年生がこれまでの経験を、初の全国の舞台でどう表現できるかが鍵になるだろう。

 日章学園は中等部時代に全国中学サッカー大会で2連覇を果たしたメンバーが2、3年生となり、チームの核を担っている。屈強なセンターバック園田健人、澤山周跳と井上航のダブルボランチ、FW伊勢隆司とセンターラインにタレントをそろえ、早稲田一男監督も自信を見せるチームに仕上がっている。

 果たしてこのブロックを突破するのはどのチームか。要注目だ。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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