バルサがやってきた、ヤア! ヤア! ヤア!=宇都宮徹壱のアブダビ日記2009

宇都宮徹壱

バルセロナ練習初日の風景

バルセロナのプジョルに殺到する世界中のメディア。この人たちは今までどこにいたのだろう? 【宇都宮徹壱】

 アブダビ滞在7日目。この日もクラブワールドカップ(W杯)のゲームはないが、あちこちで公式練習や会見が目白押しとなっていた。中でも注目は、前夜アブダビに到着したFCバルセロナであろう。大会開幕から5日目にして、これですべての大陸王者が集結したことになる。FIFA(国際サッカー連盟)のメディアサイトによると、バルサのトレーニングは13時から、全公開で行われるという。もちろん、バルセロナを見たいという思いはあった。だがその一方で、待ちに待った欧州王者が到着したことで、大会を取り巻く雰囲気がどう変化するのか――むしろ、そちらの方がはるかに興味があったので、急ぎタクシーで現場に向かうことにした。

 練習場に到着すると、すでにバルセロナの選手たちはスタメン組とサブ組に分かれて鳥かごに興じていた。双眼鏡で選手たちの表情を確認する。プジョルがいる、アンリがいる、シャビがいる、イニエスタがいる、イブラヒモビッチがいる、そして今大会最も熱い視線を浴びているメッシは……。残念ながらメッシは、先のチャンピオンズリーグ、対ディナモ・キエフ戦(9日)で右足首を負傷したため、ひとりホテルに残ってリハビリを続けているという。今年のバロンドール(世界最優秀選手)を間近で拝めないのは何とも残念ではあるが、それでもバルサの選手たちが醸し出すオーラは尋常ではなかった。最後のランニングの際、ようやく選手が至近距離まで来たのでレンズを向けてみたのだが、シャッターを切った瞬間の緊張感が、ほかの大陸王者の選手とは明らかに違う。今さらながらに、ヨーロッパチャンピオンの格の違いというものを痛感した次第である。

 尋常ではないといえば、この日の公式練習に集まったメディアの数も尋常ではなかった。ざっと数えてみて150人以上。あるいは200人近くいたのかもしれない。今大会、会見でも記者席でも、これほど多くのメディア関係者を私は見たことがなかった。
 練習後、メディア対応に応じたのはプジョルとチグリンスキだったが、キャプテンのプジョルには当然ながら取材が殺到する。これでは収集がつかないので、結局6回に分けて囲み取材が行われることになった。本人も同じような質問に6回も受け答えして、さぞかしウンザリしていたはずだが、さすがは名門クラブのキャプテン。どの質問にも真摯(しんし)に受け答えしている姿が印象的であった。こうしたオフ・ザ・ピッチでの立ち居振る舞いこそ、日本の選手はもっと見習うべきだろう。なかなかいいものを見せてもらった。

アブダビ遠征のための3つのアドバイス

軽めの調整を終えてランニングするバルセロナの選手たち。彼らの醸し出すオーラは尋常でない 【宇都宮徹壱】

 それでは前日の日記で予告していたとおり、来年のアブダビ遠征を真剣に考えているサポーター諸氏のために、その心得を伝授したいと思う。あらためて強調しておきたいのが、ホーム&アウエーのACL(アジアチャンピオンズリーグ)とは異なり、クラブW杯は滞在型の応援となることである。さすがに1試合だけ見て帰る人は少ないだろうから、2試合を観戦となると最低5泊することになる。私は現地に滞在して1週間になるが、この5日目前後が実に辛かった。街中は殺風景で変化に乏しく、ろくな食べ物が得られず、店に入ってもビールは飲めず、スタジアムへの行き来以外、まったくと言ってよいくらい変化のない日々。私はこれらを総じて「遅行性のアウエーの洗礼」と呼んでいる。

 この「遅行性のアウエーの洗礼」に対処するには、やはりそれなりの準備が必要である。ここではとりあえず、3つのアドバイスを伝授することにしたい。
 アドバイスその1は「絶対にひとりで来るな」。ひとりだと、私のような寂しい目に遭うこと必至である。必ずグループで来ること。理想は4人である。タクシーでの移動もちょうどいいし(当地での移動はもっぱらタクシー)、アブダビのホテルは無駄に広いのでツインを2部屋借りれば経済的だ。余談ながら、こちらには安宿と呼べるホテルはほとんどない。1泊1万円以上は覚悟しておいた方がよいだろう。

 アドバイスその2は、食事。食べたい時に、食べたいものにありつける環境ではないことを十分に認識した方がよい。もちろん、ホテルのレストランで済ませることも可能だが、およそ庶民的な価格とは言い難い。それから屋台のケバブ屋などというものは、アブダビでは皆無である。スタジアムにはいちおうフードコーナーがあるにはあったが、ハンバーガーに毛の生えたようなものばかりで、およそJリーグのスタジアムで楽しめる食事の比ではない。経験者としては、可能な限りレトルト食品を持参することを強くお勧めする。それと、空港のイミグレーションを出たら、免税店でビールを1ダースほど確保した方がよいだろう。ホテルの缶ビールだと、確実に500円以上はする。

 アドバイスその3は、服装。12月の中東の気候というものは、どうにもわれわれ日本人にはイメージしにくいものがある。現地で1週間過ごしてみた実感としては、おおよそ東京の9月から10月くらいの感覚であろうか。昼間はTシャツ1枚でも問題なし。夜は上に羽織るものがあれば十分である。ただ、この時期のアブダビは時おり雨も降るようだ。観戦用の雨ガッパは持ってきた方が無難だろう。ちなみにUAE(アラブ首長国連邦)という国は、さほどイスラムの戒律に厳格な国ではないが、とりわけ女性は極端に肌を露出させるのは慎むべきである。もちろん男性も同様。上半身裸で応援するのは、ここアブダビでは控えた方がよい。

 それにしてもなぜに私は、ACLの組み合わせがようやく決まったこの時期に、かようなアドバイスをしているのだろう。実のところ、その答えは明快だ。来年こそは、Jクラブおよびそのサポーターに、ぜひともアブダビに来てほしいからである。心からシンパシーが感じられるチームに、是非とも参加してほしいのである。こと来年のクラブW杯に関しては、私はJクラブであればどのチームであっても精いっぱいのエールを送るつもりでいる。どのチームであっても、だ。どうか来年のクラブW杯こそは、私をひとりにしないでほしい。頼みますよ、ホントに!

<翌日に続く>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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