夢を与えるバルサとエストゥディアンテス=クラブW杯

優勝候補が満を持して登場

ドバイに到着したバルセロナの選手たち。故障中のメッシ(中央)の出場はあるか 【(C)FIFA】

 日本からUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビへと舞台を移して行われている「FIFAクラブワールドカップ UAE 2009」(クラブW杯)は15日より準決勝に突入し、ようやく南米と欧州のチャンピオンが登場する。アルゼンチンのエストゥディアンテスはアジア王者の浦項スティーラーズと、バルセロナはメキシコのアトランテと対戦する。

 バルセロナが大本命であることは疑いの余地がないが、今大会のヨーロッパ王者と南米王者にはある共通点がある。クラブの顔が共にアルゼンチン人だということだ。バルセロナはリオネル・メッシ、そしてエストゥディアンテスはファン・セバスティアン・ベロン。クラブでは大陸王者に輝いた2人だが、皮肉なことに、アルゼンチン代表ではチームが不振を極め、母国では批判にさらされている。

 今年のバロンドール(世界最優秀選手賞)に輝いたメッシは、今年のクラブW杯の顔でもある。現在UAEでは、建物の壁やポスター、テレビコマーシャルなどあらゆるところでメッシにお目にかかれる。だが当の本人は、9日に行われた欧州チャンピオンズリーグのディナモ・キエフ戦で足首を負傷し、アトランテとの初戦への出場は微妙な状況。万全の状態で大会に臨めないことは確かだ。

 一方のエストゥディアンテスも、ホセ・ソサというクリエーティブなMFを欠いて戦わなければならない。今年の10月29日、バイエルンから古巣への期限付き移籍が発表されたが、移籍手続きが間に合わず、今大会への登録メンバーに入れることができなかった。FIFA(国際サッカー連盟)の副会長でもあるアルゼンチンサッカー協会会長のフリオ・グロンドーナが手を尽くしたが、ソサの出場はかなわなかった。
 2010年6月30日まで母国でプレーするチャンスを得た24歳のソサは、ディエゴ・マラドーナ率いるアルゼンチン代表にも招集されるのではないかと言われている逸材だ。05年にオランダで行われたワールドユース(現U−20W杯)でも、メッシらとともに世界一に輝いている。

浦項を警戒する南米王者エストゥディアンテス

 エストゥディアンテスは国内リーグタイトルは4つと少ないが、60年代後半にはカルロス・ビラルド、ファン・ラモン・ベロン(セバスティアンの父)らを擁し、コパ・リベルタドーレス3連覇、インターコンチネンタルカップ(現クラブW杯)優勝など、黄金期を築いた。
 現在チームを率いるアレハンドロ・サベージャは、82年、83年にエストゥディアンテスが国内リーグ連覇を果たした時のメンバーだ。指揮官はクラブW杯において、油断がどれだけ危険なことかを熟知している。バルセロナとの決勝の話題を振ろうとする国内メディアに対し、一歩ずつ手順を踏むことが必要だと力説した。現に07年大会では、ボカ・ジュニアーズがアフリカ王者のエトワール・サヘルに対し、1−0で辛勝しているのだ。

 実際、監督のサベージャは準決勝で戦うアジアチャンピオンの浦項スティーラーズを警戒しているようだ。アフリカ王者マゼンベとの準々決勝で2−1と試合をひっくり返したのだから、その実力は確かだろう。とはいえ、決定力があるのはマゼンベ戦で2ゴールを決めたブラジル人のデニウソンのみで、あとの選手はチャンスがあるにもかかわらず、相手ゴールを陥れることはなかった。

 33歳のFWデニウソンは、UAEではよく知られた存在である。アル・シャバブ、ドバイ・クラブ、そしてアル・ナスルと3つのクラブでプレーしていたからだ。エストゥディアンテスにとって最大の敵はこのデニウソンであり、加えて4人の韓国代表選手、DFのキム・ヒョンイル、MFのチェ・ヒョジンとキム・ジェソン、FWのノ・ビョンジュンにも注意が必要だろう。韓国は来年のW杯・南アフリカ大会でアルゼンチンと同じグループBに入った。アルゼンチンvs.韓国の前哨戦とも言えるだろう。

本気でタイトルを狙うバルセロナ

 もう1つの準決勝は、バルセロナが圧倒的に優位と言える。記憶に新しいのは3年前、今回のアトランテと同じメキシコのクラブ・アメリカと戦った準決勝だ。決してやさしい相手ではなかったが、4−0で圧勝した。それに気が緩んだのか、決勝ではインテルナシオナルに0−1で敗れ、世界一のタイトルを逃したのだが。09年はすべてのタイトルを総なめにしてきたバルセロナは、初のクラブW杯優勝で素晴らしいシーズンを締めくくりたいと考えている。いつにも増して、本気でタイトルを狙っていることは間違いない。

 対するアトランテは、準々決勝でニュージーランドのオークランド・シティと対戦し、ダニエル・アレオラ、クリスティアン・ベルムデス、ルーカス・シルバのゴールで3−0と快勝。ボールを支配し、スローテンポでショートパスをつないでいく伝統的なメキシカンスタイルのサッカーを披露した。相手がセミプロということもあり、格の違いを見せ付けた格好だ。
 アトランテはアルゼンチン人GKのフェデリコ・ビラールの存在が大きいが、オークランド・シティ戦ではその能力を見せる場面がなかった。また、ベルムデス、ラファエル・マルケス・ルーゴ(バルセロナのマルケスと同姓同名)、アルゼンチン人MFのサンティアゴ・ソラリにも注目したい。

 準決勝を戦う前に断言するのははばかられるが、それでも誰もが夢見ているのは伝統的なカード――バルセロナ対エストゥディアンテスによる決勝だろう。

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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