ひとつの達成感と、世界との歴然たる差=男子バレー・グラチャン総括

田中夕子

大会ベストスコアラーに輝いた清水(左)。選手それぞれが責任を果たし銅メダルを得たが、課題も露呈した 【坂本清】

 バレーボールのワールドグランドチャンピオンズカップ男子大会が11月18日〜23日、大阪市中央体育館、日本ガイシホール(愛知)で行われ、日本は総合成績を3勝2敗とし、3位に入った。主要な国際大会での日本男子のメダル獲得は、1977年ワールドカップ(銀メダル)以来、32年ぶりとなった。

清水&福澤、攻撃の柱が機能

 晴れ、のち、曇り。時々、雷雨。
 男子バレー日本代表にとって、主要国際大会では32年ぶりとなる表彰台。1つの結果を残した達成感はあったが、同時に、世界との歴然たる差を、あらためて痛感した大会でもあった。

 前半は、快進撃と呼ぶにふさわしい戦いを繰り広げた。
 開幕戦、ポーランド戦でのフルセット勝利から始まり、エジプト、イランを打破しての3戦全勝。五輪イヤーの翌年で、ベストメンバーとは言い難いチームがあったのも事実だが、単に勝敗のみならず、3戦を終えた日本が得た収穫、自信は幾つもあった。
 1つは、植田辰哉監督が攻撃の柱として期待を寄せる清水邦弘、福澤達哉(ともにパナソニック)の攻撃力が数字として残ったこと。あまりに偏ってしまえば単調な攻撃ともなりかねないが、苦しい場面で二段トスを打ち切れる2枚エースの存在は、確かに心強い。
 同じウイングスパイカーの米山裕太(東レ)は言う。
「チームに主役がいるから、自分は脇役でいい。でも、2人に頼りすぎてしまわないように、自分たちにできることを何とか頑張ってつなげよう。みんながそういう意識でした」
 各々(おのおの)に課せられた役割を担い、責任を分散させる。
 注目も浴び、得点源としても期待される分、清水や福澤には「あそこで点を取っていたら」とエースが背負うプレッシャーがつきまとう。だからこそ勝利後のコートインタビューで、記者会見で、選手たちはそろって「(ベンチ入りの)14人全員で戦う」と口にした。
 当初は空席が目立ったスタンドも、勝ち続けることで埋まっていく。より多くの声援を後押しに、チームのまとまりも、粘りのバレーもより強固な形を築きつつある。そんな手応えを感じ始めた矢先、雷雨に見舞われた。

強豪との戦いで浮き彫りになった課題、そして希望

ブラジルのエース・ジバのスパイクをブロックする、(左から)清水、松本、米山 【坂本清】

 大会4日目、1勝2敗で4位のイランが敗れたため、試合開始前に日本の3位以内が確定していた。残る対戦相手は今年6月のワールドリーグで完敗を喫したキューバと、過去32度の対戦で2勝30敗、1994年以降勝ち星のないブラジル。
 力の差は、歴然としていた。
 キューバ、ブラジル、どちらも同様に試合が開始するや否や、強烈なサーブとブロックで圧倒し、日本はなすすべがない。そんな中、「ただ打ちにいくだけでなく、リバウンドを取ることが自分の課題と痛感した」と言う福澤は、高さに対してスピードで対抗。ブロックアウトやプッシュボールを巧みに織り交ぜキューバ戦では65%と高いスパイク決定率を残した。しかし、頼みの清水は2枚、3枚と2メートル級の選手が立ち並ぶブロックに完全に封じられる。ブラジル戦では、福澤も得意のパイプ攻撃を立て続けに止められた。
 キューバ戦で途中交代を命じられた松本慶彦(堺)も、険しい表情を浮かべた。
「速さ、高さ、力、技術、精神力。個でもチームとしても、すべて相手が上だった。ミスも少なく、1つ1つのプレーの質や、バレーの精度が高い。当たって砕けろ、のはずが完全に押しつぶされて浮き足立ってしまった。メダルが決まった影響はなかったけれど、それまであった粘りも消えた。(メダル獲得が決まったから)そうなったと見えても、仕方がない内容でした」

 清水、福澤という若い力がチームをけん引することに明るさを見いだす一方で、周囲を見回すと、キューバには16歳のオールラウンダー、ウィルフレッド・レオン・ベネーロがいる。日本にとって、今後アジアで最大のライバルになるイランも、チームの主力は20代前半の選手ばかりであるのに加え、世界ユース選手権で優勝(07年)、準優勝(09年)という結果が示すように、国を挙げての若年層への強化システムが構築されている。
 果たして日本はといえば、清水が崩れても、代えられるメンバーがいない。ピンチサーバーとして試合に出場した古田史郎(法大4年)は清水と同じオポジットだが、大会直前になっても決定力が上がってこなかったため、植田監督は古田本人に「今大会ではオポジットとして使わない」と明言している。サーバーとしての責務を古田は十分に果たしたが、やはり層の薄さは否めない。
 3位という日本の結果はもちろん評価すべきものではある。とはいえ、結果オーライでうかうかしていると、足元をすくわれることになりかねない。

清水がベストスコアラーに、福澤はベストスパイカーに選ばれた 【坂本清】

 ただし、悲観することはない。
 幾つも挙げられる課題も、不安要素も、まだまだ修正できるものばかりであるはずだ。加えて、これらはすべて、圧倒的な力を持つ相手と対したからこそ露呈したものでもある。
 ベストスコアラーを獲得し、表彰式では笑顔を見せた清水にも、最後の2試合では幾つもの課題がみつかった。
「自分は(スパイクを)下に落とそうと打つからブロックされる。あと10センチ、5センチでも上に打てるようになればもっとパワーが使えるはずなんです。戦ってみて、ジバ(※注1)は確かにすごいけれど(ブラジルでジバの)対角に入っている8番の選手(※注2)は身長も高くないし、ジバほどのすごさや巧(うま)さはありません。ただ、スパイクは下に落とさないように、奥へ奥へ打っていた。自分もああいう打ち方をしなければダメだとあらためて感じました。死ぬ気で努力して、少しずつでも世界との差を縮めたい」
 雨が降り、地が固まるように、課題は、生かされてこそ財産になる。
 世界標準を体感し、出るための五輪から、勝つための五輪へ。
 ようやく、新生日本男子バレーがロンドンへ向けたスタートラインに立った。

<了>

※注1 ジバ……ブラジルのエースで主将、ジルベルト・ゴドイフィリョ。
※注2 ムーリオ・エンドレス。身長190センチ。
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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