山口舞、遅咲きのニューヒロイン誕生=グラチャンバレー女子
突然訪れたメンバー入りのチャンス
26歳山口舞。遅咲きのシンデレラが、全日本の新しい風となっている 【坂本清】
各大陸の王者に、国際バレーボール連盟の推薦国、開催国の日本を加えた6カ国が参加するワールドグランドチャンピオンズカップ(以下、グラチャン)初戦、対韓国。途中出場にもかかわらず、山口舞(岡山)がセンターの後方からライトへ走りこむブロード、サイドからセンターに切り込む時間差攻撃を面白いように決めて、71.43%という驚異的なスパイク決定率をたたき出した。
試合後、眩いライトに照らされる山口を多数の報道陣が取り囲み、翌日の新聞各紙が突如現れたニューヒロインの誕生を称(たた)えた。
「初めて全日本のユニフォームを着たときは、私がここにいていいのかな、と信じられませんでした」
狩野舞子(久光製薬)が大会直前にケガで離脱し、急きょ、ライトのポジションに山口が召集された。今夏のワールドグランプリに出場はしたものの、9月のアジア選手権は出場がかなわず、今月末に開幕するV・プレミアリーグに向け、チームに戻って練習を始めたばかり。予期せぬ事態に「自分にできるのか、正直、不安でした」。戸惑いは隠せなかった。
しかし、そんな不安などどこ吹く風。代表メンバーから寄せられる信頼は厚く、セッターの竹下佳江(JT)は「基礎がしっかりしているので、コンビの心配がいらない選手」と称し、ミドルの井上香織(デンソー)も「いい位置で跳んでくれるので、ブロックの効果が上がる」と高く評価する。
スピードを生かした多彩な攻撃と、スパイクコースを瞬時に読み取る堅実なブロック。確かに、所属先の岡山シーガルズでは、ミドルブロッカーとして主軸を担う選手である。世界照準に達するアピールポイントがあるのかと問われれば、即座にイエスとは言い難い。、清楚(せいそ)な髪形に、童顔。容姿もプレーも、決して派手な選手ではない。
だが、玄人には好まれる。
なぜか。
山口が、すべてのプレーをソツなくこなすことのできる選手だからに他ならない。
監督も信頼「非常に高い個人技を持った選手」
基礎力の高さが光る山口(中央)。残り2試合でのプレーにも期待だ 【坂本清】
V・プレミアリーグ所属の8チーム中7チームが外国人選手を擁するなか、岡山シーガルズは日本人選手だけで戦う純国産チームである。ポジションによってプレーに特徴を生じさせるのではなく、上背やパンチ力で劣る分、まずは正確にボールをつなぐ技術が求められる。そのため、選手個々の基本レベルが高い。当然、つまらないミスも少ない。
真鍋監督が山口を抜擢(ばってき)した理由も、まさにそこだった。
「練習中から、常に安定しています。守備だけでなく、苦しい場面でも相手にブロックをされないスパイクが打てる、非常に高い個人技を持った選手です」
それほど高さのない相手に対しては、まずスピードを重視し、相手より先に動いてブロックの枚数を減らす。反対に、ブラジルのような高さもパワーも備えた相手に対しては、真っ向勝負を挑むばかりでなく、ブロックに当てて外へ押し出すプッシュボールや、フェイントなど緩急を織り交ぜる。
タイミングにも気を配る。
「自分が打ちやすい間合いで打てれば、確かに一番楽です。でも、自分が打ちやすいということは、相手にとってもブロックで止めやすい間合いなので、わざとトスが落ちてきたところで打ったり、最高点に達する前に打ったり、状況によって打ち方や打つ間合いを変えています」
タイとの第3戦でも、山口は攻撃面でさまざまな工夫と変化を取り入れた。
無理な体勢からは勝負をせずにボールを相手ブロックに当てて、タッチボールをチャンスにつなげ、切り返しの攻撃でスピードを加える。速さが警戒されると、今度は相手のブロックが飛んでから踏み切り、意図的にタイミングを外す。
多彩なコンビバレーでアジア選手権を制したタイ。アジア選手権の準決勝で敗れた日本にとっては、リベンジをかけた一戦だった。真鍋監督以下、「もう絶対に負けられない」と研究を重ね、集中力を高めた結果の勝利ではあったのは間違いない。
そして、もう1つの要素が加わっていたことも。
試合後の会見で、タイのアピヤポン・ウィラワン主将は記者からの「(日本に勝利した)アジア選手権との違いは?」という問いに対し、苦笑いを浮かべてこう言った。
「17番(山口)のスピードと、攻撃についていけなかった」
五輪翌年に開催される大会の中で、グラチャンは最も大きなタイトルであると同時に、3年後の五輪での活躍を予感させるような、新たな戦力が誕生する場でもある。
「自信になった部分もあるけれど、見つかった課題のほうが多いので、今は先のことを考えずに、1日、1日を精一杯(いっぱい)やっていくだけです」
確かな技術を携えた、遅咲きのヒロイン。
残る2戦のみならず、新たな日本スタイルのコンビバレー構築へ向け、否(いや)応なしに期待は高まる。
<了>
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