米本、平山ら新世代が導いた再戴冠=東京ガス戦士の思いを胸に

後藤勝

平山も今季、著しく成長した若手の一人

今季限りでの退団が決まっている藤山。結局、ナビスコカップ決勝の舞台で出場機会はなかった 【後藤勝】

 クラブとしてリスペクトすべき別格の浅利と藤山が出られないほど、FC東京の競争は激しい。
 ネームバリューの高い平山相太も例外ではない。オランダから帰国後の長い低迷を脱し切れなかった平山は、昨季も赤嶺真吾とカボレに次ぐFWの地位にとどまっていた。
 去年までの不振に、情状酌量の余地はある。あらかじめ拡散したポジションをとり、足元でパスを回し、1対1で体をぶつけ合うオランダサッカーを経験した後に、ポジションが流動的で、スペースへ走り込み、運動量が求められる日本サッカーへ適応するための苦労。何より、ファンもメディアも自身を好奇の目で見る。サッカーの内容ではなく、ゴシップ記事で扱われることの方が多い時期もあった。そのような、ちょっとねじれ曲がった狂熱の波も、北京五輪代表落選とともに引いていった。

「いつまでサッカーをしていられるか分からない」
 今季、危機感と焦燥感を最大限に高めた平山は頭を丸刈りにした。オフも返上して、一から鍛え直した。ほおがこけ、浅利や藤山のように精悍(せいかん)な顔つきになっていった。
 体重が落ち、体のキレが良くなるとともにプレーにも如実な変化が表れた。
 平山はもともと足はそれほど速くないが、鈍重というわけでもない。しかしここ2年は自信のなさも手伝い、思い切った走りや突破が影を潜めていた。前線でボールを受けても、スピードがないという見切りが先に立つのか、自分でゲインしよう(運ぼう)としない。まごまごしているうちにボールを奪われるか、後ろにパスをしてしまう場面が目立っていた。ドリブルやシュートを決意しても、ボールが足につかない。
 ところが今年の平山は違う。たとえスピードがなくとも、躊躇(ちゅうちょ)せずに切れ込めばペナルティーエリアに入れるのに──という場面では、強気でドリブル突破し、シュートまでいけるようになった。
 J1第29節の柏レイソル戦の3点目、羽生直剛のスルーパスを受けての豪快なドリブルシュートはその典型だろう。

平山は攻撃陣の柱として得点し、最後までピッチに立った

一時の重圧から開放され、笑顔が戻った平山。今季は体のキレもあり、攻撃の柱に成長した 【後藤勝】

 今季の平山は前線のポスト役として素晴らしい活躍をしている。梶山がパスを出し、平山が受け、羽生が走り、石川直宏とカボレが飛び出すという役割分担の中で、欠かせないメンバーになっていた。得点の大部分は石川とカボレに集中したが、羽生同様、決定機の演出家として機能していたのだ。
 しかしFWにとって、もっとも切実な欲求がゴールを決めることであるのに変わりはない。平山の表情には、好調な中にも若干の陰りがあった。ひと月ほど前のことになるが、平山は、評価をしてくれるのはありがたいが、やはり点を取りたい、と心情を述べていた。
 その気持ちからすれば、柏戦のゴールには大きな意味があった。ナビスコカップの清水エスパルス戦を除けば、リーグ戦では第18節の大宮アルディージャ戦以来、丸3カ月ぶりの得点。直前に行われた天皇杯のカマタマーレ讃岐戦では、定位置を争う鈴木達也や赤嶺がゴールを決めた焦りか、得点意欲が空回りして自滅していたが、その沈滞を払拭(ふっしょく)し、ストライカーとしての自信を得ることができた。繰り返し行っていたフィニッシュの練習が、ようやく実った瞬間だった。

 ナビスコカップ決勝は、柏戦ですでに得た自信を確信に変えるだけでよかった。ここのところの平山の表情は適度にリラックスして見えたが、川崎戦でも実に落ち着いていた。個人技での優位性が妙な余裕を生み、普段着のサッカーができていない川崎に対し、いつものサッカーを平常心で淡々と繰り広げるFC東京。後半14分、鈴木がダイレクトで打たず、少し間をおいて上げた絶妙なクロスに、平山がヘディングで合わせる。勝敗はこの時点で決した。
「交代と言われるまでは最初からとばしていこうと思ってやっていました。結果的に最後までピッチに残った感じです」
 平山はこう言っていたが、移籍したカボレもけがの石川もいない中で、得点源として、ボールの収まりどころとして、何より絶対的な存在として最後までピッチに立っていなければならない責務があったはずだ。それを果たした今、平山はさらに前を向くことができる。
「この後につなげられれば、いいきっかけになる。もうひとつ上のレベルに行けるように、努力したいと思っています」
 一時期はメディアの重圧を前に口数の少なかった平山は、顔つきが穏やかになり、とてもよくしゃべるようになった。人間的にも成熟してきたのだろう。

5年前の経験を踏まえ、“さらに上”を目指す

 考えてみればFC東京は、七転び八起きを体現する苦労人ばかりだ。そしてその苦しみの先に再起がある。
 昨季躍進の立役者となった佐原は、今野泰幸とブルーノにポジションを譲りつつも、勝ちゲームのクローザーとしての任務を全うした。柏から移籍してきてカボレや石川の代役となることが常だった鈴木は「もう誰かの代わりと言われたくない」と言い切り、見事に平山のゴールをアシストした。
 チーム自体が苦労人だとも言える。身体能力に秀でたカボレがいなくなったことで、彼の動き出しや突破力に頼れなくなり、それが幸いして全員が連動してボールをつなげるようになった。そのおかげでバランスを取るべく奔走していた羽生も、自ら得点を決められるようになった。

 城福監督は常々「365日、右肩上がりでいられるようにしたい」と言っている。前回のナビスコカップ優勝から5年かかったが、FC東京はようやく上向きのベクトルに乗った。5年前は優勝後に迷走し、“さらに上”を目指す挑戦者の資格を失ったが、今回はその轍(てつ)は踏まないだろう。そう思えるのは、浅利と藤山を含め、試合に出られなかった者たちの逆襲があるはずだからだ。
 FC東京は転がる石のように、少しずつ角を落とし、成長を続けている。

<了>

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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