初優勝をつかんだ鈴木明子の『ウエストサイド・ストーリー』=フィギュアスケート・中国杯総括

青嶋ひろの

織田がGPシリーズ連覇でファイナルへ進出

織田信成が中国杯で今季GP2連勝を果たしファイナル進出を決めた 【Getty Images Sport】

 男子シングルでは織田信成(関西大学)が、ショートとフリー通して1位の完全優勝。フランス大会と合わせて2勝目、鈴木明子とふたりでアベック優勝。さらにはロシア大会の安藤美姫の優勝と合わせれば、グランプリシリーズは3大会連続日本人選手優勝、と、めでたいことずくめの勝利だった。
 フランス大会に続いて2度目の『チャップリン』、初戦では振付けの妙に大いにひかれたが、今回は織田信成のジャンプの確かさがこのプログラムの流れを根底から支えている、そんなことを改めて知らされる思いだった。

 力をあまり使わない織田信成のリズミカルなジャンプ、「猫のようなテイクオフとランディング」とたたえられる彼だけの軽さ、美しさ、伸びやかさが、『チャップリン』の世界にほんとうにきれいに溶け込んでいるのだ。フィギュアスケートのジャンプ、時には「直立したまま回転する」という奇妙な動きが、プログラムの世界観から浮いてしまうことも多い。しかし、まれにジャンプの持つ独特の美しさや力強さがプログラムを引き立てる、不思議な力を発揮してしまうこともある。織田のジャンプの気持ちのいい決まり方は、彼の表現しようとする喜劇王の物語に潤いを与えている――そんな魅力に、2度目の『チャップリン』では気づくことができた。

世界チャンピオン・ライザチェクを抑えての勝利

 フランス大会に続いて4回転に挑戦できず、後半のトリプルアクセルもシングルになってしまった、その点を織田本人は悔いてもいるだろう。しかしこの日のジャンプで最も美しかったのは、アクセル失敗直後に跳んだトリプルルッツ−トリプルトウ−ダブルループのコンビネーションだ。いつもと同じように「あかん! とりかえさな!」のはやった気持ちで跳んだジャンプさえ、こんなにも美しい。

 優勝しても反省しきりと伝えられる織田信成だが、自分がこんなにも美しいジャンプを跳べること、五輪シーズンに素晴らしいプログラムを滑れていることに、もっと自信を持った方がいい。世界チャンピオン・ライザチェク(米国)を抑えての勝利を、もっと喜んだ方がいい。『チャップリン』はもっと自信たっぷりに滑るべきプログラムだし、もっともっと弾けた笑顔が映えるプログラムのはずだ。

「最後に勝つ者が勝者」の五輪シーズン

 一方、ワールドチャンピオンの初戦として注目されたライザチェクは、フリーで順位を上げつつも織田におよばず2位。大きなミスこそなかったものの、ジャンプの軸は曲がりがちで跳躍は重く、ステップにはスピードがなく、全体的に精彩を欠く演技を見せてしまった。見ている人がプログラムに入り込めない――織田信成の演技とは、その点で大きく差がついてしまったのだろう。

 ライサチェクは分類してみれば「気迫型」の選手。調子が悪くても身体が勝手に動いてしまう、意識しなくてもきれいなラインを出せる、そんな器用なタイプの選手ではない。やはりスタートダッシュの遅い北米勢、まだまだ試運転、という段階か。

 しかし未完成ながら、プログラムには印象的な振り付けも多く、ジャンプの直前にスパイラルを入れるなど、凝った工夫もされている。「気迫型」だからこそ、準備万端整えて、気持ちが入りこんだ時には、驚くほどまったく別のプログラムを見せてしまうはずだ。
 ロシェット同様、「ライザチェク、今年はいまいち」などとこの段階で決めつけてしまうのは、早すぎる。こんなタイプの選手の存在こそ、「最後に勝つ者が勝者」の五輪シーズン、一番怖いのだ。

<了>

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著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

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