春の悪夢を乗り越え―― 立正大、創部61年目の初優勝=東都大学野球リーグ

矢島彩

初モノ尽くしの秋、最下位から一気に頂点へ

MVPこそ後輩の南に譲ったが、大事な一戦を初完封で飾るなどチームに貢献した小石 【矢島彩】

 熊谷、大崎の両キャンパスからバス7台で駆けつけた応援団から紙テープが投げ込まれた。春の悪夢の最下位から、一気に頂点へと駆け上がった。立正大が創部61年目で悲願のリーグ初優勝を決めた。
 初、初、初・・・。初モノ尽くしの秋だった。開幕戦で亜大から初めての勝ち点を奪うと、エース・南昌輝投手(3年=県和歌山商高)が初完封勝利、近藤亮介一塁手(4年=大宮西高)、椎名亮介捕手(3年=銚子商高)、中嶋辰也三塁手(2年=銚子商高)らにはリーグ戦初ホームランが飛び出した。
 そして、優勝のマウンドに立っていた左腕・小石博孝投手(4年=鶴崎工高)。スタンドからは“先発は(3試合連続完投中の)南ではないのか?”という声も挙がっていた。しかし、そんな声を見事に跳ねのける初完投、初完封勝利。しかも無四球だ。伊藤由紀夫監督は「あの時と同じような雰囲気を漂わせていてね。それで先発に決めた」と、起用の理由を述べた。
 ――あの時。1部最下位として臨んだ春の入れ替え戦初戦、小石は1回戦の先発を伊藤監督に志願していた。当時、1部と2部は7季連続で入れ替わっており、チームにも不気味な緊張感が漂っていた。そんな中での志願登板。「ピッチャーリーダーは菅井(聡投手・4年=中央学院高)だが、小石もとにかくよく練習する子で熱いものを秘めている」(伊藤監督)。6回3分の2を被安打3、無失点に抑え込んだ。この快投を見た社会人野球チームが、すぐに内定を決めたほどだった。
「今日の試合、投げたいと思っていました。だって初優勝のマウンドは歴史に残ることです。(先発が)うれしくて、緊張もしませんでした。あの入れ替え戦を経験していれば緊張しないです」
 MVPも最優秀投手賞も、後輩の南に譲った。だが、小石の満面の笑みからは、それ以上のものを手に入れたと言っているようだった。

試練の入れ替え戦で変わった4年生

 チームの主力を担う4年生。下級生のころから試合経験も豊富で、「自分が決めなきゃ、自分が決めなきゃと思う選手が多い」(黒葛原祥二塁手・4年=横浜高)。一方で主将の石名坂規之捕手(4年=学法石川高)は熱血キャプテン。4番の近藤も真面目で「考えすぎてしまう性格」と自己分析する。
 そんな個性の強い4年生が、入れ替え戦を機に変わった。チーム一丸となって臨めたこと、1部に残留できた自信。選手が同じ方向を向き始めた。ミーティングや集合がかかると、今まではだらだらと集まっていた。それが反応良く「キレが出るようになった」(小石)という。
 8月、炎天下の熊谷のグラウンド。練習後、選手同士が「東洋が最下位になってウチが優勝したら面白いのにね。東都っぽい」と話していた。6連覇を狙った東洋大は5位、春2位の青学大が最下位。そして、立正大が春最下位からの初優勝。夏の会話が今、現実になった。

<了>
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著者プロフィール

 1984年、神奈川県出身。『アマチュア野球』、『輝け甲子園の星』『カレッジベースヒーローズ』(以上、日刊スポーツ出版社)や『ホームラン』(廣済堂出版)などで雑誌編集や取材に携わる。また、日刊スポーツコム内でアマチュア野球のブログを配信中

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