ドイツ、ユース世代最強を誇る強さの秘密=U−17W杯・ナイジェリア2009

中野吉之伴

ドイツに巻き起こる“若手ブーム”

強豪を次々と破り、欧州選手権を制したドイツ。欧州王者としてU−17W杯に挑む 【Bongarts/Getty Images】

 24日からナイジェリアで開催されるU−17ワールドカップ(W杯)に、ヨーロッパからはドイツ、オランダ、スペイン、イタリア、スイス、トルコの6カ国が参加する。その中で最も注目すべきチームは、近年にユース年代で目覚しい成績を収めているドイツだろう。
 ドイツは今年5月に地元で開催されたU−17欧州選手権の決勝戦で、オランダを延長の末に撃破。大会前はスペイン、イタリア、オランダといった国々が優勝候補に挙げられていたが、ドイツは一戦ごとに力をつけながら勝ち残るという伝統の勝負強さををいかんなく発揮し、見事に優勝を飾った。彼らは欧州王者の肩書きを引っ提げて、ナイジェリアに乗り込む。

 ドイツでは現在、ちょっとした“若手ブーム”が巻き起こっている。事の始まりは昨年、A代表が欧州選手権決勝でスペインに敗れて優勝を逃した後、ヨアヒム・レーブ監督はコーチ陣と会議を開き、(2010年W杯が行われる)南アフリカで世界一を狙うチームになるためには、「若返りが絶対に必要」という結論に至ったことにある。

 事実、レーブ監督はこの1年、若手を積極的に起用してきた。2010W杯・南アフリカ大会の出場権を獲得した先日のロシア戦では、決勝ゴールをアシストしたMFメスト・エジル(ブレーメン)と、イエローカード2枚で退場したとはいえ、大一番で初招集・初スタメンと大抜てきされたDFジェローム・ボアテン(ハンブルガーSV)の09年U−21欧州選手権優勝メンバー2人が話題を呼んだ。
 ほかにもシュツットガルトのMFサミ・ケディラ、ブレーメンのMFマルコ・マリン、シャルケ04のGKマヌエル・ノイアーなど、若い世代が続々とA代表入りを果たしている。11月の親善試合(チリ戦、エジプト戦)では、バイエルンのU−20代表FWトーマス・ミュラーも招集される可能性が高いという。

 こうした世代交代を支えているのは、ドイツサッカー協会、ブンデスリーガ各クラブを中心とした育成プロジェクトにほかならない。ドイツは昨年から今年にかけて、U−21、その弟分のU−19、U−17で欧州選手権を制覇。ユース年代の“トリプル優勝”という過去に例のない快挙を成し遂げている。

U−20W杯は2軍半で健闘

 先日まで行われていたU−20W杯・エジプト大会、ドイツはベスト8で敗退した。準々決勝のブラジル戦では終始防戦一方で、何とかカウンターから先制点を挙げたものの、最後はブラジルの攻撃力の前に屈した。

 しかし、ドイツ国内で彼らの戦いを非難する声はない。大会前、ドイツサッカー協会スポーツディレクター、マティアス・ザマーが渋い顔で「FIFA(国際サッカー連盟)のルールには従うが、正直、大会ボイコットも考えたものだ」とコメントしたように、エースのMFトニ・クロース(レバークーゼン)、ミュラー、DFホルガー・バードシュトゥーバー(バイエルン)らをはじめ、総勢31人がクラブの都合により辞退を申し出たのだ(何人かは大会途中から合流が許可されたが)。

 そんな2軍半の状態でありながらグループリーグを1位で突破。決勝トーナメント1回戦のナイジェリア戦では、後半に1人退場者を出し、さらに相手にリードを許しながらも、不屈の闘争心で食らいつき、ロスタイムの逆転弾でベスト8に進出した。最後はブラジルに力の差を見せつけられたが、レギュラークラスの選手を多数欠きながら、大会優勝候補と目されていた強豪相手に勝利まであと一歩に迫ったことは称賛に値する。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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