鹿島の主将・小笠原が抱く危機感=常勝軍団であり続けるために
求めているのは「チーム内の競争激化」
若手が小笠原の思いに応え、成長することが、鹿島が常勝軍団で居続ける上でのかぎとなる 【写真は共同】
周囲から絶大な信頼を得るリーダーは、現在の苦境を打開しようと必死だ。鹿島が2連覇した過去2年間を振り返ってみると、07年は途中までイタリアにいてシーズン後半戦しか貢献できなかった。08年も9月に負傷したため、終盤戦の大事な時期を逃した。ゆえに、今季こそはキャプテンとしてフル参戦し、常勝軍団に13個目のタイトルをもたらしたいと考えている。
3連覇を達成するために、小笠原が今、最も強く求めているのが、「チーム内の競争激化」である。
「こういう苦しい時だから、もっとチーム全体でやっていかなきゃいけない。最近は11人が固定されているけど、それを打ち破る選手が出てきてほしい。途中から出てきたやつが活躍してスタメンを奪うとか、そういう流れも必要じゃないかな。今まではそういうのが毎年あった。自分が去年けがをした時には中後(雅喜=現千葉)が頑張ったし、ヤナギさん(柳沢敦=現京都)が苦しかった時は有三(田代)が出て頑張った。その次に慎三(興梠)、大迫(勇也)が伸びてきた。DF陣も剛(大岩)さんのところに伊野波(雅彦)が出てきたし、イバ(新井場徹)とパク(チュホ)のところも競争が生まれた。それが最近ないのがすごく気になるよね」
確かに今季前半は、大迫やパクら新たな戦力が台頭し、チームの危機を救った。が、その後、17試合無敗というJリーグ新記録記録を作ってしまったことで、オリヴェイラ監督もメンバーを変える必要がなくなった。2位以下との大きな勝ち点差が、いつの間にかチーム全体に「油断」と「慢心」を生み出したのかもしれない。中後や船山祐二や石神直哉(共に現セレッソ大阪)といった、過去2年間に要所要所で活躍してきた人材の流出も、今となっては非常に痛い。ここへきて、鹿島は「選手層の薄さ」という予期せぬテーマにぶつかることになった。
実際、本山が左太もも裏肉離れで8月半ばから1カ月以上の離脱を強いられても、代役になり得たのはダニーロ1人だった。そのダニーロも運動量が少なく、守備の意識が低いため、本山の穴は埋められない。背番号10が1人いなくなっただけで、あれほど完ぺきだった中盤の連動性、守備の組織が崩れてしまうのは問題だ。そこで勢いある若手が出てくれば、チームに化学変化が起きるのだが、そういった選手も現れていない。小笠原も現状を大いに不安視する。
「今の鹿島は、上も真ん中も若手もいて、年齢的にバランスが取れたチームだと思う。だけど、欲を言えば、下の選手たちにもっとやってほしい。ケンカになるくらいでもいいから『試合に出たいんだ』ってアピールしてほしいんだよね。僕らだって若かったころ、ビスマルクとかにガツガツいって『ごめん』って謝ってた(苦笑)。もちろん下が頑張っても負けられないけど、そういう勢いでやって、チームが活性化されれば、さらにいいよね」
この発言は的を射ている。いくら実績のあるチームでも、下からの追い上げがなければ硬直化は避けられない。
小笠原の思いに若手が応えられるか
ご存知の通り、彼は「男は黙って」というタイプである。多くを語らず、何事も行動で示そうとする。鹿島第一期のキャプテンだった闘将・本田泰人とは対極にいるように映る。本人も「僕は人にいろいろ言うより、まず自分が走らなきゃいけない。それが一番大事だと思う。下のやつらは年上の選手を見ている。『この人、これだけやってるんだから、自分もやらないといけない』と感じてくれればそれでいいから」と静かに言う。
けれども、今は非常事態である。オリヴェイラ監督からキャプテンマークを託されて3年。チームは最大級の苦境に直面している。このままズルズルと首位から転げ落ちるようなことがあってはならない。そのために彼自身、もっと力強くチームメートを鼓舞する必要がある。本人は好まないだろうが、あえて「不言実行」から「有言実行」になり、周囲に厳しさを求めるくらいの大胆な変化があってもいい。
そして、周囲もキャプテンの闘争心に応える努力をしなければならない。「居残りでシュート練習をしていたりすると、控え組が何となくやっていると感じられることがある。そういうのを見ているとまずいなって思う。僕らが若かったころはポジションを取ってやろうと、もっとガムシャラだったんじゃないかな」と曽ヶ端準も物足りなさを口にする。
10年以上の間、共に鹿島を引っ張ってきた同期の面々は小笠原の思いをよく理解している。しかし、全員が同じ意識で戦っているかといえば、そうは言い切れない面がある。若手や控え選手が自覚を持たなければ、J発足から17年間の輝かしい歴史が途絶えてしまいかねない。今こそ、チーム全体に奮起が求められている。
鹿島が常勝軍団で居続けられるのか。小笠原の熱い思いが3連覇という形で結実するのか。すべては今季残り8試合の戦いぶりに懸かっている。
<了>