ポゼッションから仕掛けることの難しさ=高円宮杯 広島観音高校 2−2 東京ヴェルディユース

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高い個人技も恐さを欠いた東京V

ドリブル突破する広島観音のFW竹内翼。敵将の松田監督もその実力を認めた 【スポーツナビ】

 時計の針は45分を指そうとしていた。第4の審判がロスタイム表示の準備を進めている。ピッチでは1点ビハインドの広島観音高校が最後の望みを託し、右サイドからクロスを放り込んだ。広島観音の応援席からは「来たッー」との叫び声が聞こえる。次の瞬間、頭ひとつ高く飛んだFW井上友輔のヘッドがゴールネットを揺らした。
 2−2。土壇場での起死回生の同点弾に、秋津サッカー場のボルテージは最高潮に達した。それまで高い個人技で観衆を沸かせた東京ヴェルディユースの選手たちは茫然(ぼうぜん)自失。最後の最後で、勝ち点3を逃すはめになった。

 広島観音の最後まであきらめない姿勢、ゴールへの執念は称賛に値する。これには東京V・松田岳夫監督も「ゴールの意識が相手の方が上回っていたということ」と素直に認めざるを得なかった。だが、試合の主導権を握っていたのは東京Vのはずだった。先制を許しながらも焦らずボールをつなぎ、多彩なパスワークと個の力でリズムを引き戻した。前半のうちに同点に追いつくと、後半は相手のミスを見逃さずにゴールを奪うしたたかさも見せた。

「アイツらうまッ。メチャうめーよ。何なんだよ、アイツら」
 前半を終え、ベンチに戻る広島観音のある選手はこう言い放ち、ピッチに座り込んだ。外から見ても東京Vの個人技の高さは一目瞭然(りょうぜん)なのだから、実際に対応する選手たちにとっては厄介極まりなかっただろう。東京Vは「これがユースと高校サッカーの違いさ」と言わんばかりの技を見せつけた。
 止めて蹴るといった基本プレーはもちろん、ボールキープやファーストタッチの際の身体の使い方まで、個々の能力に関しては東京Vが広島観音を完全に上回った。10番のMF小林祐希はユース選手とは思えないほどのテクニックを披露し、MF高木善朗もキレのある動きで前線をかき回した。

 しかし、松田監督に言わせれば、そんな選手たちも「下手なんですよ」の一言で片付けられてしまう。テクニックの高さに裏打ちされたボール回しも、Jユース監督の目はごまかせない。指揮官はチームの課題を的確にとらえていた。
「ポゼッションのときに、動かさないといけないという意識に縛られた。ウチはボールを動かし、相手を動かすサッカーをやってきた。でも、何のために動かすのか。ゴールを奪うためです。でも、この試合ではただ動かすだけになってしまった」
 なるほど。そう説明されれば合点はいく。確かに、中盤でボールは回るが、肝心のゴール前で東京Vは恐さを欠いた。

技術を生かすためにすべきこと

 ならば、対峙(たいじ)した広島観音はどう感じていたのか。畑喜美夫監督は「(ボールを回されることは)野洲高校との試合でもあるので。回される時間といける時間というところで、この試合は6対4で向こうが回して、残りの4でしっかりハイプレスで奪えればと。そういう意味では、目の前で回される分には恐くない。慌てるなということを伝えた」と試合を振り返った。

 パス回しはあくまでゴールを奪うための手段。だが、東京Vはこの試合でその手段に終始してしまった。個人技で上回りながらも、相手を崩せない。東京Vらしいと言えばそれまでだが、悪い癖がこの試合でも露呈した。
「ボールを支配することと、ゴールに向かうことを両方やるのは難しい。どちらかに偏ってしまう。トレーニングではそういうことを意識していたが、(試合では)できなかった。こういうときに高木俊幸(欠場)のように背後への鋭さがあれば。うまく回すだけでなくてね」(松田監督)

 この問題は実に悩ましい。個のレベルアップ、トップチームへの選手供給を第一義とするJユースにとって、チームとしての完成度はそれほど重要ではない。解決策はチーム全体ではなく、あくまで選手個々に委ねられる。考え方としては、個人の判断力・コミュニケーション力を高めていけば、それができる選手がいれば、チームの課題もおのずと克服されるということなのだろう。

 松田監督がいいプレーの具体例として挙げたのは、広島観音のFW竹内翼だ。「彼が将来どんな選手になるかは別として、ボールを持っている選手に対して、どこでもらいたいのかしっかりと意思表示をしていた。あれがいいプレーの基準」とし、翻って、東京Vの選手たちは「ドリブルでごまかしていたり、逃げるためのキープでしかなかった。自分たちでボールを受けたくない、ネガティブな意識が働いてしまった」と分析した。

 ポゼッションから仕掛ける課題は、何も東京Vに限ったことではない。広くとらえれば、日本サッカー界が抱える問題とも言えるだろう。技術を生かすためにすべきこと。この難題をトップチームに上がってからと先送りにせず、ユース年代でいかに昇華できるか。そこに育成の真価が問われる。
「持っているものの半分も出せなかった。それを出すすべを身につけないと」
 松田監督のこの言葉に期待したい。

<了>

(編集部:今成 裕)
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