赤い彗星、伝統の超オープン攻撃に復活の兆し=高円宮杯 東福岡高校 3−1 流経大柏高校

スポーツナビ

未完のチームが秘めた可能性

“赤い彗星”こと東福岡は、持ち味の超オープン攻撃を生かして流経大柏を寄せ付けなかった 【スポーツナビ】

 伝統の4−5−1は健在――。まるで夏を思わせる強い日差しの中、緑のピッチで躍動したのは、“赤い彗星(すいせい)”こと東福岡高校だった。高円宮杯第20回全日本ユース(U−18)サッカー選手権大会の1次ラウンド第2戦、東福岡は強烈なサイド攻撃からゴールを重ね、高校サッカー関東の雄、流経大柏高校を撃破。持ち味を十分に発揮し、会心の勝利を収めた。

 今から12年前の1997年、東福岡は本山雅志(鹿島)、古賀誠史(神戸)、宮原裕司(福岡)らを擁し、インターハイ(高校総体)、全日本ユース(高円宮杯)、選手権で優勝し、高校サッカー3冠を達成。ピッチをワイドに使った超オープン攻撃が一世を風靡(ふうび)した。
 そのサッカーの原動力となったのが、両サイドにスピード豊かな選手を配置し、1トップの後方に2人のセカンドトップを並べる4−5−1だ(今どきの4列表記に倣えば4−1−4−1になる)。当時、東福岡はまさに最強を誇った。決して難しいサッカーをやっているわけではないが、個々の能力の高さも手伝って、分かっていても止められないほどの破壊力を有していた。

“ヒガシ”の伝統は時を経た現在も、しっかりと受け継がれている。だが、今年の東福岡はこれまで前評判の高さとは裏腹に、結果を残せずに苦しんでいた。圧倒的な強さで優勝したプリンスリーグ九州を筆頭に、3つの九州大会(新人戦、九州大会、プリンスリーグ)を制するなど春先は順風満帆だった。その強さから、「今年は東福岡がいいらしい」との声も聞かれたほどだ。しかし、インターハイでは優勝候補の一角に挙げられながら、まさかの初戦敗退(PK戦で徳島商業高校に敗北)と苦汁をなめた。

 このギャップについて、森重潤也監督は「そんなに完成されているとは思っていない。もっとやれるのにとは思いますけど。九州で運良く結果を出せて、高い評価を得ているが、まだまだそこまでのチームじゃない」と苦笑いしながら話してくれた。だが、同時にこう付け加えることも忘れていなかった。
「可能性はあるのかなという気もしますけれど……」

勝負を決めた3点目に東福岡の真骨頂

 1週間前、広島観音高校との初戦を1−2で落とし、「絶対に負けられなかった」(東福岡・深町健太)と意気込んだ流経大柏との第2戦。だが、東福岡は前半19分にあっさりと先制を許してしまう。この時点で森重監督には1つの懸念があった。
「(流経大柏も初戦で負けており)どちらも負けられない一戦だから、どちらかが点を取ったらパワープレー状態になってしまうかもしれなかった」

 実際、この日の東福岡は流経大柏の高さを意識して、185センチの興梠雄亮(本来はセンターバック)を1トップに据えている。早い時間帯からのパワープレーも辞さない覚悟で、この一戦に臨んでいたのだ。
 だが、指揮官の心配をよそに、選手たちは自分たちのサッカーを貫いた。前半21分には自陣でのビルドアップから右サイドを攻略し、中央で深町が押し込んで同点。さらに、その5分後にはFKから深町が技ありヘッドで逆転に成功した。

 圧巻は勝負を決めた3点目だ。森重監督が「理想的な形。一発でサイドチェンジして、相手DFがスライドし切れない間に、裏に入り込めた」という完ぺきな崩しから、最後はポイントゲッターの深町がGKとの1対1を制して、ハットトリックを達成した。殊勲のヒーローとなった深町に森重監督の言葉を伝えると、「味方がうまく引き付けてくれたので」と言葉少なに振り返った。
 このゴールシーンにこそ、東福岡の真骨頂は凝縮されている。局面を一発で打開するロングフィード、ボールを受けた阿部寛樹のドリブルによる仕掛け、相手DFを引きつける1トップの存在、そして1・5列目から裏への飛び出し。ダイナミックかつ連動したプレーに迷いはなく、一撃必殺の鋭さが光った。

「こういうプレーが随所に出て、精度、スピードが上がればね。ああいう形で2点、3点取れるようになりたい」
 こう話す森重監督の口元も自然とほころんだ。前半終了間際の決定打は、悩める東福岡に勝利をもたらすとともに、自らのサッカーをあらためて信じさせてくれる価値あるゴールとなった。

 Jユースに優秀なタレントが流れ込む昨今の事情を鑑みれば、3冠を達成した12年前のチームに比べて個の力で劣る点はどうしても否めない。だが、個々がしっかりと役割を果たし、伝統の超オープン攻撃がはまれば、上位進出の可能性も見えてくる。
 復活の兆しをうかがわせた東福岡は19日、次戦で決勝トーナメント進出を懸けて強豪東京ヴェルディユースに挑む。全国の舞台でようやくつかんだ1勝を自信に、赤い彗星の戦いは続く。

<了>

(編集部:今成 裕)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント