「実りの秋」へ、ユース年代最強決定戦が開幕=高円宮杯(U−18) 大阪桐蔭vs.三菱養和SCユース

平野貴也

強豪を相手に特徴を発揮

 高校年代の頂点を決める戦いが始まった。高円宮杯第20回全日本ユース(U−18)サッカー選手権大会が6日、開幕した。
 まだ残暑の季節だが、約1カ月におよぶ今大会はユース年代では秋の収穫期といってもよいころ合にあたる。指導者や選手から「春とは違う」といった言葉が多く聞かれるように、春のプリンスリーグ、夏のクラブユース選手権や高校総体を経てチームが完成度を高め、選手個人もチーム戦術の中で特徴を出し始める時期だ。グループAで強豪の三菱養和SCユースを相手に勝利寸前まで迫った大阪桐蔭高校は、そんな特徴を開幕戦で存分に発揮した。

 対戦相手の三菱養和ユースは、U−18日本代表経験者が中盤にズラリと名をそろえる強豪だ。この日はエース格のMF田中輝希が3日ほど前に足首をひねったために欠場したが、それでも加藤大、玉城峻吾がセンターでコンダクターとなり、突破力のある両ウイングを生かして多彩な攻撃を披露した。
 出足は前評判を証明するものだった。球際へ強く寄せる大阪桐蔭高校を尻目に、奪ったボールを正確かつスピーディーに危険地帯へ送り込み、鮮やかなパスワークで守備から攻撃の切り替えを行うと、23分に玉城がペナルティーエリアでドリブル突破を仕掛けてPKを獲得。加藤があっさりと決めて先制に成功した。その後も玉城のミドルシュートがバーをたたくなど、惜しいシーンを演出し続けた。大阪桐蔭は、たまらずフィールド内のポジションを変更して対応したが、それでも「パスを回され続けて苦しかった」(大阪桐蔭・MF高須英暢)。

 ところが、後半に入ると形勢は逆転した。畳み掛けるような攻撃とこの2日間で急に夏へと逆戻りした東京の暑さに体力を奪われた三菱養和はたちまちペースダウン。大阪桐蔭は後半開始早々の46分に高い位置でのボール奪取から左のアタッカー高須が決めて同点とすると、61分にも同様にインターセプトからラストパスにつなげるショートカウンターで高須がゴール。一気に試合をひっくり返した。特に攻撃陣は見違えた。前半は素早いサイドアタックから個人技での打開を図ろうと苦戦していたが、後半は守備を優先して相手ボールのときには下がったものの、攻撃へ移ると短いパスをリズムよくつないで前へと運んだ。さらに、アタッキングサードではイマジネーションを取り戻し、気の利いたフェイントを織り交ぜながらワンツーなどで相手を崩し、本来の持ち味を発揮した。

チームを救った坊主頭のストライカー

 チームを立ち上げてからわずか5年で全国クラスの強豪となった大阪桐蔭は今夏、大阪・野勢市のレクリエーション施設でチームワークの大切さを学んだという。永野悦次郎監督は、今季のチームのスタートを「1期生は高校生らしくまじめだったが、成績がよくなってみんなが勘違いを始めた。今年の高校総体も『2回戦は強豪の大津』なんて考えでいるから、初戦で国見に負けた。プレーも個々が勝手で、受け手が要求していないパスを平気で出すようなチームだった」と振り返る。
 レクリエーションでは、全員が協力しなければクリアできない難問を押し付け、話し合うことの重要性に直面させた。この日の攻撃の改善についてもハーフタイムに指示を与えたのではなく、「自分たちで、みんなで話し合ったから、そうなったのだと思います。今までは個人技に頼っていたけど、周囲を使うことの必要性に気がついたんでしょう」と説明した。

 チームは、規律とチームワークを重視し、おごりを捨てて高みを見据える。2得点を決めた高須が坊主頭だったのもチームの規律の証明だった。右ひざの半月板を痛めながら懸命にリハビリを行い、復帰予定の9月末よりも早く戻ってきたが、あろうことか試合前日に二度寝をして集合時間に遅れた。永野監督から「駅前に理髪店があるだろうから、そこへ行って来い」と言われ、頭を丸めた。指揮官は「三度寝だったら3点取るかな」と笑ったが、高須は「2点取ったけど、勝てなかったからまだ足りない。今日はチームメートがしっかりと守備をして、パスをくれただけ。応援してくれる人に申し訳ない」と真顔で答えた。チームは試合終盤、一発のカウンターで裏を取られ、2−2の同点で試合を終えた。

 強豪を相手に善戦した手応えと、勝ち切れなかった悔しさが残ったが、一番の成果は彼らが成長していたことだろう。同会場の2試合目で大分トリニータU−18を3−2の逆転で下したサンフレッチェ広島ユースのMF中山雄登には「大阪桐蔭とは、前に対戦したときに5点ぐらい取って大勝したんですけど、今日の試合を見ていたらまったく別のチームになっていましたね。油断できません」と言わしめた。
 ユース年代、実りの秋へ。中期戦の今大会、まだまだドラマが見られそうだ。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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