日本サッカーの新星を求めて=高円宮杯の潮流、今大会の見どころ
高校生年代の日本一を決める高円宮杯
前回の高円宮杯は山田直輝、原口元気らを擁した浦和ユースが優勝した 【エル・ゴラッソ】
9月6日に20回目の開幕を迎える大変に長い正式名称を持つこの大会の一般的な知名度は決して高くない。通称は大別して「高円宮杯」と「全日本ユース」の2通り。以前は高校サッカーのチームから単に「ユース」と呼ばれることもあったが(例:「総体、ユース、選手権の三冠を狙う」)、近年は単に「たかまど」と呼ぶ人も多い。
高円宮杯は、高校の部活、Jリーグの下部組織、町のクラブチームといった枠組みを超えて高校生年代の日本一を決めるという目標を掲げ、U−15年代の大会とともに20年前に創始された大会だ。
当時(1989年)はまだJリーグ開幕前。本格的なクラブは少なかったが、クラブチーム側の強い要請もあり、大会は急ピッチで整備された。高体連(高等学校体育連盟)とクラブチームが当たる公式戦自体が実質的に存在しておらず、まさに歴史的なチャレンジだったと言えるだろう。日本サッカー協会の犬飼基昭会長が「20年も前からこうした大会をやっているだけですごい」と言うのも、もっともだ。
ただ、高体連の公式戦ではないこともあり、高校サッカー側のテンションはバラバラ。高円宮杯が高体連のカウンター勢力としてのクラブチームを振興するという目的を少なからず有していたことも、温度差を生む要因だったのだろう。「高校側が実戦機会に乏しいクラブ側へ胸を貸す親善試合」といった雰囲気もあった。そして、Jリーグ開幕後、徐々にJの下部組織が力を付けていった時期を経ても、そうした空気は大きく変わらなかった。
高校とクラブの力関係が逆転する時代へ突入
同大会にはクラブ・高体連の枠を超えた参加が認められたことから、日本サッカーは2つのカテゴリーに分断されていた高校年代のチームが、日常的に競い合う時代へと突入していくことになった。
この変化は同時に高円宮杯という大会自体の権威を高めることにもつながった。リーグ戦の延長としての決勝大会、つまり「チャンピオンズカップ」としての地位を得たからである。それまではクラブと高体連で出場枠が完全に分けられ、しかも高体連側は6月頃に開催されるショートトーナメントである地域大会が予選と位置付けられていた。「本当に強いチームが出ていない」という批判が絶えなかったが、この変更でそうした声も一掃されたわけだ。
こうした流れは、くしくも高体連とクラブの力関係が逆転していく過程でもあった。現在の高校年代は、クラブ側(この場合は主にJクラブ)が中学時代に「有望」と言われる人材を寡占する時代へと突入しつつある。もちろん、中学時代に「有望」とされる人材が高校でも「有望」のままであるケースはそれほど多くないので、高体連に進んだ選手から「逆転」するケースは多々ある。ただ、選手獲得競争を含めて「クラブは高校に勝てない」と言われていた時代がだいぶ前に終わったことは確かだ。
都道府県レベルのリーグ戦も着実に整備され、競い合う環境が日常となりつつある昨今、「高校vs.ユース」といった単純な議論は価値を失いつつある。もちろん、ライバル意識は残っているし、それぞれに自尊心もある。無駄にいがみ合っていた時代はもう終わったということだ。
日本の育成年代が過渡期を迎えているのは明らかで、この高円宮杯も近いうちに開催時期を含めた抜本的な改革が行われるだろう。この大会自体、そもそもの存在理由から「高校vs.ユースの真の日本一決定戦!!」と煽る必要があったのだろうが、現在はもっと違った視点が必要になっている。
大会のオフィシャル側もそうした変化は敏感に察知しているようで、以前はお決まりだった「高校vs.ユース」といったコピーは消えた。今年はプリンスリーグを「ジモト最強決定リーグ」と称した延長のコピーで「そして、日本最強になる」としており、カテゴリーを超えた戦いであるということをことさら強調する内容にはなっていない。実に示唆に富む話だ。