甲子園を駆け抜けた初出場11校の夏=2009年夏の甲子園リポート

松倉雄太

インフルエンザが襲うも8強進出した立正大淞南

 夏29回、春25回の甲子園出場を誇る伝統校・中京大中京高(愛知)が43年ぶり大会最多となる7度目の優勝で幕を閉じた第91回全国高校野球選手権大会。ことしは49代表中11校が春夏通じて初出場校というフレッシュな顔触れが甲子園に登場した。91回目という伝統ある夏の甲子園を駆け抜けた初出場校の戦いぶりを振り返る。

立正大淞南高(島根)
2回戦 1−0 華陵高(山口)
3回戦 4−2 東農大二高(群馬)
準々決勝 3−11 日本文理高(新潟)

 立正大淞南高は準々決勝進出と春夏通じて初出場校の中でもっとも勝ち進んだ。
 華陵高との投手戦となった初戦では、後藤静磨のサヨナラ弾で劇的な勝利を挙げ、歓喜に沸いた。しかし、防ぎようのない出来事が待っていた。初戦の後にベンチ入り選手3人が新型インフルエンザに感染して、チームを離れた。
「ここで負けたら絶対に後悔する人がいる。絶対に勝ってもう一度全員で野球がしたい」。
 林田真央主将は3回戦の前にそう話してチームを鼓舞した。その3回戦は終盤に勝ち越して、東農大二高を破った。試合後に満面の笑みを見せる林田主将。
 だが、神はまたしても試練を与える。準々決勝の抽選を終えた林田主将までがインフルエンザに感染していることが判明。準々決勝の朝、林田はエース・崎田聖羅に電話をかけた。
「情けないキャプテンでごめん」
 電話の声はかすれていた。
 発熱の選手も合わせ5人がベンチに入れなかった準々決勝。日本文理高を相手に立正大淞南ナインは立ち向かった。勝利を手にすることはかなわなかったが、ベッドの上の選手を含めた全員一丸の野球ができた。
「目指してきた甲子園で3回も試合できて悔いはない」。
 エースの言葉がナインの気持ちを代弁しているかのようだった。

常葉橘高(静岡)
1回戦 2−0 旭川大高(北北海道)
2回戦 7−6 高知高(高知)
3回戦 6−8 明豊高(大分)

 エース・庄司隼人の力投なしには語れない。旭川大高の左腕・柿田竜吾との投げ合いとなった1回戦はわずか1時間29分で完封。140キロ台中盤の直球に、テンポのいいピッチングはうわさにたがわぬ実力だった。しかし、2回戦以降は終盤にバテる場面が見られた。静岡大会では球数が多くなっても落ちなかった球威と制球が、甲子園では終盤に目に見えて落ちる。少ない練習時間も微妙に響いているようだった。それでも明豊高との3回戦ではバックが堅守で盛り立てた。延長で敗れはしたが、「みんなのおかげでここまでこれた」とエースは胸を張った。

横浜隼人高(神奈川)
1回戦 6−2 伊万里農林高(佐賀)
2回戦 1−4 花巻東高(岩手)

 伊万里農林高を破って初勝利を挙げた横浜隼人高。2回戦の相手は菊池雄星擁する花巻東高。先発したのは2年生エース・今岡一平ではなく左腕の飯田将太。水谷哲也監督が「左打線に強い」と送り出したが、初回に1点を失った。2回以降も走者を背負う苦しいピッチングだったが、追加点を与えない。3回から継投した3年生右腕の萩原大輝も7回に勝ち越し2ランを浴びたが、持ち味の粘りを発揮。チームのモットーである笑顔を貫き、選抜準優勝校が相手でも動じない精神力があった。3番手で登板した今岡は「この経験を必ず来年に生かす」と力強く語って甲子園を後にした。

日本航空石川高(石川)
2回戦 3−2 明桜高(秋田)
3回戦 5−12 日本文理高(新潟)

 明桜高・二木健との対決となった初戦は延長戦。12回まで進んだ試合は、相手捕手の三塁悪送球という形で勝利が飛び込んできた。石川大会から3回目のサヨナラ勝ち。ポイントとなる部分で必ず敵失が絡むツキがこのチームにはあった。「ウチらしい野球」と語った今久留主祐成監督。3回戦では日本文理高との北信越対決に力負けしたが、9回に3点を返す意地を見せた。能登地区から初の甲子園となった同校。これからの石川県高校野球勢力図を変える布石となるか。

藤井学園寒川(香川)
2回戦 3−4 日本文理高(新潟)

 悲願の初出場を果たした藤井学園寒川高。その原動力となったのは斉真輝から高橋涼平への必勝リレー。斉は7回、本塁打で1点差に詰め寄られたところで高橋にマウンドを譲った。しかし8回、高橋も日本文理打線につかまった。必勝リレーが実らず無念の逆転負け。「投げ急いでしまった」と肩を落とす2年生の高橋。来年はエースとしてこのマウンドに戻ってみせる。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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