欧州のスカウトが見たU−17日本代表と宇佐美=スペイン遠征で見えた根本的な問題

小澤一郎

日本はうまい選手が多いが……

日本は個人で“うまい”選手は多いのだが…… 【Alberto Iranzo】

 ただし、こうした日本サッカーや日本人選手への賞賛というのはお世辞も混ざっており、額面通りに受け止めるわけにはいかない。加えて、今大会の日本の順位は7位と振るわなかった。昨年の柏U−18が3位に終わったことを考えれば、「昨年のチームの方が完成度は高かった」(ビジャレアル関係者)という声が出ても不思議ではない。
 また、個人的には欧州サッカー関係者の賞賛を間に受けて喜ぶような時代は終わったと考えている。今の日本のサッカーは欧州や世界との間にあった大差を縮める時代を経て、きん差勝負の中で世界に勝ちにいく時代に突入している。

 基本的に、「日本は年々良くなっている」という褒め言葉の裏側にあるのは旧時代の考え方だ。確かに、100年以上のフットボール史を持つ欧州サッカーの視点からすれば、プロリーグ発足から15年程度で同じ土俵に上がってきた日本の進歩というのは賞賛に値する。ただ、ここ数年日本のサッカーを見続けている欧州の関係者は、日本が欧州の強豪と真剣勝負できるレベルにあると認識している。だからこそ、こうした知名度あるハイレレベルな大会に日本チームが招待されるのだ。
 現に、ビジャレアルのフェルナンド・ロイグ会長は、「日本のチームは向上心が旺盛で、そうした謙虚な姿勢はビジャレアルにも勉強になる」と話していたし、個人的にスペイン一の目利きと尊敬するビジャレアル技術部の重鎮パキート氏も、「日本のチームや選手が持っているディシプリンは本当に素晴らしい。スペインの選手に不足しているのは選手として、人間としての規律や行儀。そういったものを日本のチームから学んでもらいたい」と語っている。

 つまり、われわれが今耳を傾けるべきは、こうした新時代の認識を持つ欧州サッカー関係者からの言葉である。そこには賞賛とともに苦言も混ざっている。中でもビジャレアルのパキート氏は、「(U−17日本代表は)全般的にはいい。選手はテクニックとディシプリンを持っているし、チームとしてみた時のポジションバランスもいい。ただ、サッカーにおいてテクニックや戦術を習得する目標というのはゴールを奪うため、勝つためだ。しかし、日本のチームからはそうした最終目的がおろそかにされている印象を受けた」と指摘していた。

 わたしが4日間を通してこのU−17日本代表に持った印象も「全体的にうまい選手が多いけれど、個人レベルでうまい止まり」というもの。要するに個人のうまさが、チームとしての強さに直結していないということだ。また、気になったのが、まるで感情を自ら抜き取っているかのような淡々としたプレーぶり。スペイン遠征が本大会に向けた最終メンバー選考を兼ねていたことを差し引いても、あまりに大人しすぎる。日本は点を決めても勝っても喜びが少ないチームで、喜怒哀楽の感情表現を採点するなら文句なしの最下位だろう。最終日を見ていると、上の順位決定戦になればなるほど気持ちをピッチ上で表現できる選手が多かった。抽象的な表現だが、サッカーへの情熱や戦う意欲、結果を出した時の喜びといった感情をチームとしてストレートに表現できていたリバプール(優勝)やセルティック(2位)のようなチームが上に勝ち残ったことは見過ごしてはいけない事実だろう。

宇佐美は手を抜いてプレーすることを覚えてしまっている

ビジャレアル技術部のパキート氏は日本チームに対して苦言を呈した 【Alberto Iranzo】

 U−17日本代表の戦術的な課題を挙げておくと、アタッキングサードに入った時の攻撃の工夫と崩す形の不足。ダブルボランチが2人同時に前線のプレスに参加するため、そこでボールを奪えなかった時にはバイタルエリアががら空きになること。攻から守の切り替えが遅く、ボールホルダーに対するファーストアプローチの強度が極端に弱いことなどが挙げられる。
 ただし、こうした戦術的課題はすぐに修正ができる。一方、この年代、カテゴリーでサッカーの本質から外れた習慣を身に付けてしまうとそれを取り戻すことは容易ではない。日本ではうまい選手が淡々とプレーすることが「大人のサッカー」と評価され、選手も“クールな選手”を目指すのかもしれないが、欧州や世界では大人のサッカーも子供のサッカーもなく、「サッカーはサッカー」。クールに華麗なサッカーを展開しているように見えるスペインでも子供から「フガドール(選手)である前にルチャドール(戦士)であれ」と、徹底的して戦う姿勢とピッチ上での表現法を教え込まれる。

 心配なのがこのチーム、このカテゴリーでは敵なしで、才能を持て余している感のある宇佐美の行く末だ。例えば、ビジャレアルのエグレンやブルーノといった選手のマネジメント業務に携わるスカウトのファクンド・エレファン氏は宇佐美についてこういう話をしてくれた。
「タカシがスーパーな選手なのは間違いないし、彼ほどのタレントは欧州でもそうはいない。ただ、すでにこの年齢で彼は手を抜いてプレーすることを覚えてしまっている。それは70%、80%の力でプレーしても十分通用するからだ。一流の選手になるためには、18歳前後の年齢で100%ではなく110%でプレーし続ける必要がある。もし今のようなプレーぶりが1年、2年と続けば危険だ。日本で彼が110%の力を出せないのであれば、早く欧州に来た方がいいだろう」

 欧州の名門クラブユースがそろうビジャレアル国際ユースサッカー大会を見ても、日本チームが勝負できる、日本人選手が通用するのは十分に分かった。欧州、世界との差は縮まり、今の日本サッカーはきん差の中で真剣勝負を戦う土俵に立っている。もちろん、ディテールは大切で戦術的な細部を詰めていく必要はあるのだが、今大会のU−17日本代表からはそうした部分よりも、サッカーの本質をあらためて考え直す必要があるのではないかということを痛感させられた。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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