巨人が狙うスラッガー長野の恩返し=第80回都市対抗直前リポート

矢島彩

チームを思う心とより力をつけるための残留

Honda・長野はことしのドラフトで巨人が指名を確約している社会人球界屈指のスラッガー。 【島尻譲】

 球春幕開け前のことし2月、巨人がHonda・長野久義(日大)のドラフト1位指名確約を明らかにした。
「僕はもう過去に2回も(ドラフトを)やっているんです。こればかりは当日にならないと分からないこと」
 日大4年時の2006年ドラフトで北海道日本ハムから指名されたは長野は巨人への思いを断ち切れず、Hondaへ入社した。ただ、巨人ファンだからという理由がすべてではない。春秋連続で東都大学リーグの首位打者を獲得。大学全日本にも選ばれ国際大会でも結果を残してきた。プロ側の評価は、大学・社会人4巡目指名。自分が思っていた以上に低かった。力不足を補うべく社会人で2年間を過ごしてきた。
 しかし、ドラフト解禁となった昨年。巨人はプロ志望届を締め切りぎりぎりに提出した東海大相模高のスラッガー・大田泰示を獲得。その間、千葉ロッテが2位で長野を指名した。順位、条件面など大学時よりずっと高い評価。長野の気持ちは揺れていた。
 本格的な交渉は11月の日本選手権後に行われた。千葉ロッテは06年に福岡ソフトバンク入りを熱望していた大嶺祐太(八重山商工高)の契約に成功している。自信はあった。
 だが、長野は同大会で4打席2三振と精彩を欠き初戦敗退。
「全国大会で同じチーム(JR九州/北九州市)に3回も負けて、自分もこういう大事なところで打てていない。完成した状態でプロへ行きたい。今の状態では無理だと思った」
 Hondaへの残留を決意した。巨人への一途な思いだけではない。「このチームでやれて、本当に楽しいしうれしい」。Hondaへの愛情を人一倍持っているのだ。

試行錯誤を乗り越えて好調をキープ

「都市対抗は出なければいけない大会。それに、うちは日本一の戦力だと思っています」
 南関東2次予選では、市民球団かずさマジック(君津市)戦、日本通運(さいたま市)戦と2試合連続でホームランを放った。
 今シーズンは打力の確実性を求め、5月から試行錯誤の日々を繰り返した。昨年1年間で打率3割2厘。「不甲斐ない成績」が自分自身を刺激する。さらに、三菱ふそう川崎から西郷泰之(日本学園高)が移籍してきた。アトランタ五輪日本代表や社会人ベストナイン6回を獲得するなど“ミスター社会人”の異名を持つ強打者だ。
「西郷さんが後ろにいるので、その前に自分が打とうとしていたのかも。あんまり考えない性格の僕が、こんなに考えるのは社会人になって初めて」
 勝負強さがある西郷さんの前に出塁しなければいけない。西郷さんが入ってきて、自分もより打たなければいけない。いろいろな悩みが長野を襲った。
 たが、6月初旬の都市対抗予選から好調をキープしている。8月初旬に日本代表に選出されたアジア選手権では満塁本塁打を放った。
「今は目の前の試合や大会以外、何も考えないように野球をやっています」
 悩んだことが形になってきた。

 入社後の都市対抗での最高戦績は08年のベスト4。自身の結果は2大会5試合で17打数4安打と今ひとつだ。おそらく今回が最後となる都市対抗。ここで勝利に貢献することが、チームへの最高の恩返しになる。長野が13年ぶりの黒獅子旗を手繰り寄せられるか。

<了>
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著者プロフィール

 1984年、神奈川県出身。『アマチュア野球』、『輝け甲子園の星』『カレッジベースヒーローズ』(以上、日刊スポーツ出版社)や『ホームラン』(廣済堂出版)などで雑誌編集や取材に携わる。また、日刊スポーツコム内でアマチュア野球のブログを配信中

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