県岐阜商、31年ぶり8強の原動力=タジケンの甲子園リポート2009
次の塁を狙う姿勢づくりの徹底
大きくオーバーランをし、いつでも走れる姿勢をつくる。ベースに戻るのは、ボールが投手に返ってきたあと。それが、県岐阜商高の走者の決まりだ。
「スキのない野球、そつのない野球を目指しています。ヒットを打って安心するのではなく、外野手がのんびり返球したり、ショーバンを投げたりしたときはいつでも行けるように目を切らない。そうすれば相手にプレッシャーをかけられると思います。1球に対する集中力ですね」(児玉健一郎右翼手)
プロ野球の悪影響もあり、安打を打ち、ベースに着いた瞬間にエルボーガード、フットガードを外しにかかるのが最近の高校生の常。タイムリーを打とうものなら、ガッツポーズをすることに意識がいき、簡単にボールから目を切ってしまう。そのせいで、進塁機会を逃していることも多い。そんななか、県岐阜商高は次の塁を狙う姿勢づくりを徹底している。
試合中は、プレー中以外もボーっとしているヒマはない。
相手の投手が代われば、全員がベンチから出て、投球練習に合わせてバットスイング。コーチャーに出ている選手も、コーチャーズボックスで構えの姿勢をつくり、タイミングを計っていた。
「初球から行けるようにですね。打席で初めてボールを見るのではなく、『待ってました』という感じで打てるように。相手もイヤだと思います」(児玉)
ベンチでは、花巻東高を見習い、拍手で盛り上げる。アウトやミスをしたときこそ大きな声で盛り上げ、士気が下がらないようにしている。
また、この日は攻守交替時の投球練習後のボール回しが禁止されたが、県岐阜商高の内野手は、捕手が二塁送球をしたあと、いつもどおりボール回しをするかのように投げるジェスチャー、捕るジェスチャーをする“イメージボール回し”をしていた。
「ボール回しがないと、いつもどおり(守備に)入っていけないので、いつもどおりの入りをするためにやっています。ジェスチャーだけでもやればボールが来るイメージがわきますし、(ボールが飛んで来ても)一歩目(のスタート)が切りやすくなります」(藤田知晃二塁手)
1球にいかに真剣に向き合えるか
「藤田監督になり、一番変わったのはあいさつの仕方ですね。それまでは『おざっす』と言っていたのを『おはようございます』、『ちわ』と言っていたのを『こんにちは』とはっきり言うようになりました。藤田先生は『ちゃんとした日本語をしゃべれ。そこまでやってこそホンモノだ』と。日本語を言うようになったら、野球部以外のほかの先生方にも応援してもらえるようになりました。甲子園に来れたのも、PLに勝てたのも、技術よりもそこかなと思います」
今夏の岐阜大会ではこんなことがあった。準決勝の中京高戦。1対2で迎えた9回に2失策と四球で1死満塁のピンチを迎えた。ここで、雷雨で試合は中断。いっこうにやむ気配のない雨に、スタンドのファンからは「雨天コールドだな」という声が聞かれたが、県岐阜商高ナインはあきらめなかった。
あきらめなかったのは、スタンドにいた3年生たち。雨が降り続いている状況にもかかわらずグランドに降り、スポンジでの水抜き、グランド整備を始めたのだ。その試合、スタンドでの応援組だった小木曽は言う。
「僕らは1年生のときに(長良川)球場の補助員をやるので、(整備用の)道具のある場所を知ってるんです。そこに取りに行き、いつでも行けるようにカメラマン席で待機していました。正直、小降りにもなってなかったんですけど、『行くぞ』と言って飛び出しました。3年生が率先して、ドロドロになりながら整備をやれば、必ず流れが来ると思いました」
県岐阜商高3年生の必死の整備と思いが伝わり、試合は1時間28分後に再開。絶体絶命のピンチを乗り切ると、その裏、3連打で逆転サヨナラ勝ち。藤田監督に「スタンドの3年生のおかげで勝たしてもらった」と言わしめた。
「以前の自分たちなら、整備もせず、スタンドで引退を覚悟していたかもしれません」(小木曽)
あいさつなど小さなことにこだわり、心が変わり、行動が変わった結果だった。
ちなみに、今大会では小木曽記録員は最近では珍しい学帽をかぶってベンチ入りしている。
「藤田先生に『そっちの方がかっこいいから』と言われてかぶっているんですが、高野連の方からも『その帽子いいね』と言われる。かぶって良かったです」
小さなこだわりはここにもある。
藤田監督の好きな言葉は「一球一生 一打一生」。
1球で人生が変わることもある。その1球に、いかに真剣に向き合えるか。そのためには、ガッツポーズをしているヒマもなければ、ボーっとしているヒマもない。
1球への集中力――。
県岐阜商高31年ぶりベスト8の原動力は、間違いなくこれだった。
<了>
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