バスケ五十嵐インタビュー スピードスターの原点は、「一番になりたい!」

小永吉陽子

バスケの走力トレーニングと走る質

パブリセビッチ元HCの走り込み指導は、まさに地獄。しかし、そのトレーニングで戦うための“土台”ができた 【(C)Getty Images/AFLO】

――バスケットボールは走らないと勝てないスポーツ。どのような走力トレーニングをしているのでしょうか。

 オフが明けてチーム練習が始まったばかりの5〜7月ごろに走り込みをします。一般の人にとっては、バスケは短い距離を行き来するスポーツで、長距離を走るイメージはないかもしれません。でも、長距離を走ることで体力がついて足腰が鍛えられ、ケガの予防にもなるんです。走り込みで体力をつけることは、どのスポーツでも共通していると思います。

 また僕自身、ここ数年は春から夏の間は日本代表の活動をしていて、日本で開催された3年前の世界選手権までは、必ず6月にヨーロッパ遠征で走り込みをやってきました。場所は(当時ヘッドコーチだったジェリコ・パブリセビッチの出身である)クロアチアの高地でしたが、僕ら日本代表の選手にとっては、一生のうちであんなに走ったことはないほど地獄の遠征でした(笑)。地獄ではありましたが、その走り込みをやることで、国際大会での連戦や、長丁場のリーグ戦でも戦い切れる体が作れましたね。

――高地ではどのような走り込みトレーニングをするのですか?

 山道を走ったり、坂道ダッシュをしたり、体育館でインターバル走をしたり、器具を使ってステップを踏んだり。いろいろな方法で走るトレーニングをしました。バランス良く走るトレーニングを取り入れることが、体を作るうえでは大切だと経験上感じています。

――では、シーズン中はどのような走り込みトレーニングをしますか?

 チーム方針によると思いますが、試合翌日をあえて休養日にしないで、ゆっくりと長距離を走って汗をかいて、疲れを取るんです。時間にして15〜30分。試合の疲れもあったりするので、程よくゆっくりと走るのがいいみたいです。ボールを使った練習でも、攻防の練習を繰り返すことで自然と走ることになります。

――五十嵐選手の特徴はJBL(日本リーグ)ナンバーワンのスピード。コートの中では、どのようにして加速をつけてディフェンスを振り切っていくのですか。

 走り出しの1、2歩目を重要視しています。ウオーミグアップでダッシュする時も1、2歩目を意識して走ったり、緩急をつけてダッシュをしたりします。バスケは同じスピードで走っていてもダメだし、ゆっくり走るのもダメ。スピードの緩急をつけて相手を抜くんです。そのためにも1、2歩目の走り出しがうまくいくと加速に乗れる。最後のフィニッシュは上に跳ぶ感じで振り切ります。

――バスケの走りは一試合走り抜く持久力と、コートを行き来するトランジション(切り替わり、変換)の瞬発力が必要とされます。走りの質はどのように違いますか?

 持久力も瞬発力も体力と脚力が必要です。僕自身、長距離はあまり得意ではないのですが、走り込みをしないと体力がつかないし、体力がなければコートの中で瞬時にスピードを出すこともできません。持久力と瞬発力の両方の走りを大切にしています。

スピードスターが感じる「走る魅力」とは

競技ごとに違う「走り方」。それぞれに魅力があると話す五十嵐選手 【スポーツナビ】

――バスケットボールと陸上という「走り」をメーンとした競技を経験してきた五十嵐選手にとって、スポーツにおける「走り」をどのように感じていますか。

 走るスポーツといってもそれぞれに魅力がありますね。スポーツを見ている人たちは、競技にはいろいろな走りがあることを意識してみると面白いと思います。たとえば、マラソンだってただ延々と走っているだけでなく駆け引きがあるし、バスケットボールならば速攻だけじゃなくて、体のぶつけ合いから相手を振り切る走りや、トランジションの激しい走りがあります。質は違うけれど、どれも大切なスポーツの走りだと思います。

――“スピードスター”五十嵐圭が思う「走ること」の魅力とは。

 僕は常に「一番速い選手でいたい」という気持ちでやってきました。一番でゴールテープを切ったり、誰よりも速く走ってシュートを入れる爽快(そうかい)感はたまりません。走ること自体が好きなんですね。最初は「誰よりも速く走りたい」思いから、今では「どうしたら人より速くゴールできるか」と考えながらやるようになってきています。だから僕にとっては、バスケを続けていくうえで走ることは切っても切れないものです。いくつになっても、トップスピードで走ってゴールを決めた時が最高です。

<了>


<五十嵐圭プロフィール>
1980年5月7日、新潟県生まれ。バスケットボール日本代表。ポジションはガード。強豪校の北陸高(福井)、中大を経て、2003年に日立サンロッカーズに入団。06−07シーズンからキャプテンを務め、08−09シーズンには、創部以来最高成績となるJBL準優勝にチームを導いた。2009年6月、トヨタ自動車アルバルクへ移籍。日本代表としては、2003年、05年、07年と今年8月のアジア選手権、06年世界選手権などに出場している。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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